アロナの洞窟生活
それからあれよあれよという間に、アロナの洞窟生活はなんと十四日目を迎えた。といってもアルベールに知らされなければ、彼女はもう自分がどのくらいこの場所にいるのかさえ、よく分からなかったのだが。
それほどに夢中で、必死で、そして楽しかった。
アロナの体は既に悲鳴を上げ、温かなブーツであっても足はぼろぼろで凍傷になりかけている。寒さのせいであまり食欲も湧かず、水だけは飲まなければと自身に言い聞かせる。
ルタに会わない間は洞窟から出て、陽の光を体中に浴びた。
アルベールやその従者達に自分と同じような生活を強いていることが、とても申し訳なかった。
自分に構わず城へ帰るよう進言したが、アルベールはそれを頑なに拒否した。執務の関係でどうしてもというときだけ、それも夜には必ず戻ってくる。アロナも何度か着いていき、簡単な入浴などをさせてもらった。
そうしてアルベールに対し罪悪感を感じつつも、彼女は毎日せっせとルタの元へ通い続けたのだった。
「そうなんだ、それはおもしろいね」
「でしょう?私もまさか、三度も自分を殺した相手と四度目に親しくなるとは、思いもしませんでした」
「アロナはきっとお人好しなんだ」
「そんなことはないと思うのだけれど」
ルタとの時間は、アロナにとってもとても充実したものだった。アルベールやセリカから「神龍の長を救ってほしい」と言われた時、自分などにそんなことができるのだろうかと、不安を抱えていた。
けれど蓋を開けてみれば、アロナは毎日ただお喋りをしているだけ。最初のうちはルタの体力が保たず、十分もしないうちに切り上げていた。
それを毎日毎日繰り返す中で、少しずつ時間が延び、ルタの瞳の色が柔らかくなっていく。なにかしてほしいことはないかとアロナが問えば、ルタは「君の話を聞かせてほしい」と答えた。
相手が望んでいることとはいえたったそれだけでいいのかと戸惑ったが、日に日に回復の兆しを見せるルタに彼女も安堵する。
四度目の人生であるという秘密を知っているルタには、全てを包み隠さず話すことができた。気さくで柔らかな雰囲気をもつルタのおかげで、アロナは凍てつく寒さも忘れて充実した時間を過ごしていたのだった。
「君の話は本当におもしろいよ、アロナ」
「今さらですが、このようなことでよいのでしょうか」
「もちろんさ。トゥラリアナの加護を受けた君が傍にいてくれることで、彼女の神力が少しずつ僕の体内を浄化してくれる。死にかけていたこの体は、君のおかげですっかり生気を取り戻したんだ」
嬉しそうに体を揺するルタを見て、アロナは控えめに微笑む。
「私ではなく、女神トゥラリアナのお力です」
「ううん。君は僕の命の恩人だよ、アロナ。君の為なら僕はなんだってできる」
「神龍様がそのようなことをおっしゃってはいけません。あなた様はこの地になくてはならない存在なのですから」
ルタと話していると、まるで普通の人間と対峙しているかのようで、相手が神に等しい存在であるということをすっかり忘れてしまいそうになる。
「見違えました、ルタ様」
「本当?僕、かっこいいかな」
「ええ、とても」
初めて出会った頃の憔悴しきった様子は、今やかけらもない。白金に輝く肢体は艶々としていてハリがあり、鱗も滑らかで皺ひとつない。ぽきりと折れてしまいそうに細かった二本の金のツノは、天高く聳える鉾のように堂々と鎮座していた。
(まさかこんなに上手くいくなんて。お元気になられて本当によかったわ)
透き通るような美声でアロナの名を呼ぶルタを見つめながら、彼女は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。




