自身を創るもの
自分の今までの人生は、全てが無意味だった。いくら純粋で強い愛を持っていようとも、相手から同じように返されなければ、なんの意味もない。
あの時。三度目の死に際にようやくルーファスの正体を知り、絶望のままに生を終えた。そして望んでもいないのに、アロナはまた四度目の人生を生きさせられている。
(だってあの日、私の愛は死んだのよ)
溢れ出る涙を拭うこともしないまま、アロナは地に頬がつきそうなほどに体を屈める。
「私、私は…っ、私の人生は……っ」
結局、ルーファスの愛に縛られる。死んでは蘇り、また彼を愛し、そして死ぬ。ようやく解放されたと思っても結局、この命は彼への愛でできていたのだと思い知らされる。
「こんな、こんなのあんまりだわ…っ」
もう、どうして自分が泣いているのかさえアロナには分からなかった。あの日、ルーファスへの愛と一緒に流れて消えたと思っていた涙は、まだ自分の中にこんなにも残っていた。
惨めで、憐れで、滑稽ですらある。
返されもしないものを求め、必死にしがみつく。
(私は女神トゥラリアナのように、ルーファスの手を取ることはできない)
魂となりてなお、自分を裏切った愛する人の元へと降り立った彼女のようには、なれない。なりたくない。
四度目こそは自分の人生を生きようと、必死にもがいてきたと言うのに。
消したと思っていたものが、今もまだ自身の中に色濃く残っていたという事実が、アロナは悲しかった。
そこまでの愚か者ではないと、思いたかったのに。
「う…、うぅ……っ、うぅ…っ」
神龍の御前だということも忘れ、アロナは泣き続ける。ルタはそんな彼女を、ただ黙って見つめていた。
そしてしばらくののち、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「僕は言ったよ、アロナ。相手の気持ちは、全く関係がないと」
「…はい、分かっています」
淡く発光する湖の中に浸かっていた、ルタの尾。すっかり痩せ細ったそれを軽く振り上げると、ぱしゃんと水飛沫が散る。
頬にかかった水を、アロナはなぜだか温かいと感じた。
まるでルタの指が、自身の涙を拭っているようだと。
「それは、君のものだ」
ルタのしゃがれた声が、頭に響く。
「君が創り出した、君だけの愛だよ」
その台詞に、アロナはゆっくりと瞳を閉じる。最後にもう一度だけ、彼女の涙がぱたりと地に落ちた。
ーーアロナはぼうっと惚けたまま、ルタのいる洞窟の外で待っていたセリカと共に、アルベールの元へと帰る。脳は役目を果たしていないのに、足が勝手に歩いているような変な感覚だった。
セリカは、真っ赤に泣き腫らした彼女に気づきながらも、声をかけることはなかった。それが気遣いであると、アロナには分かる。
「ルタ様は、体力が保たないようです。またここへ来てもよいと許可をいただきました」
「そうですか」
「セリカ様」
アロナの方から、セリカへ声をかける。セリカはただ静かに、白金の瞳を彼女へ向けた。
「明日もルタ様を訪ねてよろしいでしょうか」
「…もちろんです、フルバート様」
「ありがとうございます」
ルタとアロナの間でどのような会話が交わされたのか、彼女には分からない。ルタはもちろんのこと、この接触がアロナにも強い影響を与えたのは明らかだ。
その場凌ぎの慰めの言葉はかえって彼女を傷つけるかもしれないと、セリカはそれ以上なにも言わなかった。




