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女神という存在

(その“加護の女神”が私だと…?)


まさかそんなはずはないと、アロナは思わず体を硬くする。勘違いでこの場に訪れたことへの恐怖と申し訳なさが、彼女を襲った。


「あなたがなにを考えているのか、手に取るように分かります。ですが、そんな間違いは起こりえないのです」


アルベールの確信めいた台詞も、アロナの心を和らげることはない。


「まず、この場には辺境伯を受け継いだ者しか入ることはできない。例外は“加護の女神”のみ」

「で、ですが…」

「僕はあなたを、一か八か入れるかもしれないという程度の認識で連れてきたわけではありません。確たる理由があるからです」


(確たる理由…?)


「あなたが“エイミ”と呼んでいる、クローゼットの少女のことです」


アロナの瞳が驚きに見開かれる。まさか、そんなはず、という副詞がいくつも脳内に浮かぶ。そしてそんな考えを打ち消す、目の前の神々しい存在。


「僕の屋敷に住んでいる少女達の正体は、全員が神龍なのです」


(…ありえない)


確かに、あの少女達…ことエイミに関しては、どこか人ならざるもののような独特の雰囲気があるとアロナも思っていた。


けれどそれは、本当に“そう”であるという意味ではなかった。なんらかの事情があるのだろうと察してはいたが、まさか人間でないとは。


「いきなりこんなことを言われても信じられないでしょうが」

「もしもこれが手の込んだ嫌がらせならば、私は貴方を許せません」

「ハハッ、確かにそうだ」


頭が混乱し、辺境伯相手につい失礼な物言いをしてしまう。これが全て現実かつ真実であるということは、眼前に佇む神龍を見れば理解できる。


理解はできても、頭の整理ができないのだ。


「で、ですがなぜ…」


(私が気に入られたの?)


神龍セリカは頭をもたげると、ゆっくりとアロナに近づく。彼女は怯えてしまわないよう、奥歯にぐうっと力を入れた。


「不思議な香りがします。これまでの”加護の女神”からは感じられなかった、不思議な香りが」


(そういえば、彼女達も…)


アロナのことを、しきりに「不思議だ」と表現していた。


「この方はなんらかの神に護られている」

「なんらかの神、とは?」


アルベールの疑問に、セリカは答えられないと首を小さく左右に振った。


「それは“あの子”にしか分かりません」

「そうですか」

「ですが、フルバート様が”加護の女神”であることは、紛れもない真実。それも、ここまで強い力の方に出会うのは、決して短くはない私の行路でも初めてかもしれません」

「まさかそこまでとは…」


アロナは、ちらりとアルベールを見やる。その表情からは、彼の心情を図ることができなかった。


「フルバート様」


自身の名を呼ぶセリカの声は、まるで頭の中に直接流れてくるような感覚だとアロナは思う。


目の前の神龍は紛れもなく人ではないのに、彼女の瞼の裏に浮かぶのは女神のように美しい女性の姿だった。


「どうか、私の願いを聞き入れてはくれませんか?初対面で頼みごとなど不躾だと、重々承知しております」


(随分と腰が低いわ)


神龍という存在について、アロナに知識があるわけではない。それでも神に近い尊い存在であることは、理解できる。


白金の肢体が淡く発光する様は、今までに見たなによりも神々しかった。

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