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アルベールが囲う少女達

「驚いたわ。まさかこの子が懐くなんて」


自分と目の前の少女・エイミしかいないと思っていた部屋で第三者の声がしたことに、アロナはぴくりと反応する。


振り向くとそこには、余裕たっぷりといった表情を浮かべたアビゲイルが立っていた。


「こんにちは、アロナ様」

「アビゲイル様」

「呼び捨てにしてくださって構いません。私はあなたよりもずっと歳が下なのですから」


とてもそうは思えない言い回しに、アロナは心を堅くする。アビゲイルには、まるで全てを見透かすような不思議な雰囲気が漂っていた。


「ちょっとアビゲイル、先に行くなよ」

「もう、せっかちなんだから」


彼女の後に続き、特段ノックの音も声かけもなく短髪のカーニャと一番小さなマルマが部屋に入ってくる。


そしてアロナのすぐ傍に立っているエイミを見て、二人は目を瞬かせた。


「うそ…あの子がアル以外と一緒にいるなんて」

「アルが嬉しそうに言ってたことは本当だったってわけか」


カーニャの言葉に、みるみるうちにマルマの頬が膨らむ。


彼女は明らかに機嫌を損ねた様子で、つかつかとアロナに歩み寄るとその胸元にびしっと指を突きつけた。


思った以上に小さくて可愛らしい手だと、アロナは思う。


「あなた、本当にアルの婚約者候補じゃないのよね?」

「はい、私はロファンソン様にとって何者でもありません」

「だったらさっさとこの城から出ていってよね!他の女達もそうだったけど、どうせわたし達には勝てないんだから!」


ふんと鼻を鳴らし、まるで自身がアルベールの恋人であるかのように振る舞う。


そんなマルマを見て、アロナは頬が緩みそうになるのを堪えた。


(小さな淑女に失礼だわ)


きっとアルベールを慕っているのだろう彼女からすれば、アロナは邪魔以外の何者でもない。


もしも契約が受け入れられた時には、特にマルマには根気よく説明しなければならないと、アロナは思った。


(私達の間には、決して愛など存在しないと)


まぁ、この様子からしてアルベールがたとえ契約であろうとも自分を受け入れることはないだろうが。


「マルマ、ちょっとどいてよ」

「なによ、カーニャ!」

「あたしだってこの人と話したい」


カーニャは初対面でもそうしたように、くんくんと鼻を動かしアロナを嗅ぐ仕草をみせる。そして台詞もまた、朝と同じだった。


「変な匂いがする」

「…ごめんなさい、不快かしら」


(部屋に戻ってすぐ、ラーラに確認してもらったのに)


こう言われるたび、アロナは地味に傷つくのだ。


「くさいって意味じゃないよ」

「本当に?」

「あんたって、人間だよな?」


それはくさいと言われるよりも、もっと衝撃的な一言だった。


「私は今まで、自分がそうだと思って生きてきたのですが…」

「やだ、変な人!」


アロナの返しに、マルマがバカにしたように笑う。


すると今まで一言も喋らなかったエイミが、すっとアロナの前に立った。


「ロナ、いじめないで」


両手を広げ、まるで守るような仕草にアロナの胸はきゅんと音を立てる。


「エイミ、構わないのよ。いじめられているわけではないわ」

「ロナ、いやはない?」

「ええ、嫌ではないわ」


何気なく交わされている両人の会話を、他の三人は目をまんまるに見開いて見つめるのだった。

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