互いに、不思議
見た目だけでいえば、ドレスとまではいかずともきちんとした仕立ての白いワンピースを着ている。床に流れている長い髪は梳かされていないように見えるが、艶がないのかと言われればそんなこともない。
透き通るほどの白い肌は滑らかで、折檻されたアザもなさそうだ。
酷い扱いを受けているわけではないのかもしれないが、名前もつけずこんな場所に放置していること自体が、アロナは許せない。
(それとも、なにか事情があるのかしら)
思考の切り替えが得意な彼女は、そんな風に考える。三度の人生で嫌というほど思い知ったのは、目に見えるものが全てではないということだからだ。
「ラーラ。マンサを呼んでくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」
「…っ!」
アロナの言葉に、少女はびくりと体を震わせた。
「どうしたの?」
「…いや」
「なにが嫌なのかしら」
「…ひと、いや」
話し方、振る舞いがその見た目以上に幼い。けれどこちらの言うことはきちんと理解しているようだ。
「メイドを呼んで、あなたのその長い髪を結ってもらおうと思ったのだけど」
ふるふると首を左右に振ると、それに合わせて白髪も大きく揺れる。
(人と接することが苦手みたいね。だからこんな場所に?)
ロファンソンによって無理矢理閉じ込められたわけではないようで、内心アロナは胸を撫で下ろす。
「私はここにいてもいいのかしら」
「あなたは、いい」
「どうして?」
「ふしぎ、だから」
先程も口にしていた台詞。少女はその後ちらりとラーラに目を向け、怯えるように髪で顔を覆い隠した。
「ラーラ。あなたも部屋を出てくれるかしら」
「お嬢様、それは…」
「なにかあればすぐに呼ぶから。少しの間だけ、二人にさせてほしいの」
ラーラは不安げな表情でアロナと少女を交互に見やり、小さく頷く。少しだけですよ、と何度も繰り返す彼女に、アロナは微笑みながら頷いた。
「さぁ、二人になったわよ」
しんと静まり返った部屋の中に微かに響くのは、足音と髪を引きずる音。裸足のまま、少女はクローゼットの中から出てきた。
と次の瞬間、少女は自身の髪を踏んづけどてんと前に転ぶ。アロナは慌てて彼女に駆け寄ったが、安易に触れることはしない。
「まぁ、大丈夫?怪我はない?」
「…だいじょぶ」
「その髪はとても素敵だけれど、結んだ方がいいわ。また転けたら大変ですもの」
その髪にゆっくりと手を伸ばし、持ち上げる。見た目以上にさらりとしていて指通りがよく、絹糸に触れているかのようだとアロナは思った。
「きらい」
「触られるのが嫌なの?」
「うん」
「なるべく手早く済ませるから、許可してくれないかしら」
少女はむくりと顔を持ち上げ、じっとアロナを見つめる。先程も感じた、胸に広がる表し難い感情。きっと、この白水晶のような瞳のせいだろうと彼女は考える。
「うん」
「それは、許可してくれるということ?」
頷いたようなそうでないような、曖昧な返答。それでも嫌がっている雰囲気ではないと、アロナは柔らかく目を細めた。




