フルバート家との違い
フルバートの馬車は門番小屋付近で休息を取らせ、城の門まではロファンソンの馬車で向かうこととなった。とても乗り心地が良く、そして暖かかった。
「アロナお嬢様。なにか羽織られますか?」
「このコートで充分よ、ラーラ」
内門に到着したアロナは、ゆっくりと馬車から降りる。すると先に到着していたらしい侍女のラーラがすぐさま駆け寄ってきた。
アロナは、ラーラだけを身の回りの世話役としてフルバート家から連れてきた。あとは護衛のみだが、ラーラがいてくれればなんとかなるだろうと彼女は考えていた。
当初は、そのラーラでさえ極寒の地は可哀想だと思い、現地で適当なメイドを手配しようとしていたが、ラーラ自身が置いていかれることを断固として拒否したのだ。
「この馬車はとても乗り心地良く感じました」
「ロファンソンの馬車は、熱を逃さぬよう羊毛が使われているのです」
「それで暖かかったのですね」
寒冷地の人々はさまざまな工夫を凝らしているのだと、アロナは素直に感心する。そんな彼女を見て、クロッケンは穏やかな表情で目尻に皺を寄せた。
国の第三王子・ルーファス殿下の婚約者がこの城にやってくると主人であるロファンソンから聞いた時、クロッケンは正直に言えば不安しかなかった。
王都から遠く離れたアストフォビアには、貴族達の下世話な噂話はあまり耳に入ってこない。それでも、フルバート公爵家の悪評はクロッケンでさえ知っている。
そんな貴族の娘が一体なんの用だと、今でも疑心は抱いている。しかしアロナを見る限りでは、そこまで悪い性分の人間には見えなかった。
クロッケンから品定めされていることに、アロナは気がついている。それは当然のことであるし、この執事長は有能なのだろう雰囲気が漂っていた。
(普通警戒するわよね)
リュート夫人のコネクションがなければ、そもそもここに来ることすら叶わなかったに違いない。アロナは改めて夫人の協力に感謝しつつ、失礼に当たらない程度に視線を動かした。
ずらりと並ぶメイド達は皆一様に血色が良く、きちんとした食生活をしていることが見てとれる。教育もきちんと行き届いているようで、延びた背筋と流れるような礼の仕方にアロナは感心する。
言ってしまえば田舎の城であるのに、宮殿の一流メイド達にも引けを取らないその質の良さは、流石ロファンソンと言えるだろう。
(あまり品定めのようなこと、しない方が良いわよね)
目線を前へ戻したアロナの目の前に、一人のメイドが現れた。
「初めまして、フルバート様。私はメイド長のマンサと申します。ここでの生活が最上のものとなるよう、一同誠心誠意を尽くします」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
マンサは少しふくよかな女性で、歳は四十半ばといったところだろうか。見るからにてきぱきとしたやり手のメイドだ。
クロッケンの話によれば、ロファンソンが城へ戻るのは夕刻。アロナと夕食を食べるつもりだとのことで、それまでは客間で寛ぐようにと勧められた。
「流石ロファンソン卿に仕える方々ですね」
「普段どんな扱いを受けているのかが良く分かるわ」
ラーラの言葉に、アロナはフルバート家の使用人達を思い浮かべる。ラーラを始めとするアロナに仕える侍女達を除いて、皆主人であるサムソンやグロウリアに怯え常に顔色を窺っている。些細な失態一つでさえ、許されることがないからだ。
指示がなければ自発的に動けず、不測の事態にとても弱い。普段抑圧されている為に、自身の判断で動くことが怖いのだ。
ここの使用人達には、そういった色が見られなかった。ロファンソンは恐怖で統治をしているわけではないということだろう。
「後ほど夕食に着用するドレスを部屋に運んでくださるとのことです」
「別に持参したもので構わないのに」
アロナはそう言ったが、それではロファンソンの顔が立たないのだろう。大人しくもてなされていた方が良さそうだ。
「この客室も素晴らしいですね」
辺りをきょろきょろと見回したラーラが、感嘆の溜息を吐く。
確かに彼女の言う通り、調度品やその配置に至るまで、全てが豪華で洗練されている。宮殿への出入りに慣れているアロナでさえ、少し落ち着かないほどだ。
ガタンッ
ふと壁一面に備えつけられてあるクローゼットに目をやると、中から小さな音が聞こえた。




