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小狡い作戦

♢♢♢


アロナは、ククルに二つのことを頼んだ。一つは“アロナ・フルバートは遠い北の地に住まう辺境伯に恋焦がれている″という噂を、学園にばら撒くこと。それはきっとルーファスの耳に入ることとなり、いい気はしないだろうと彼女は思う。


彼の性格を熟知している、いや熟知しているつもりだったといった方が正確かもしれないが、ルーファスという人間は表立っては非難をしない。けれど、優秀な兄達に強烈な劣等感を抱きながら育ってきたこともまた事実。


婚約者が自分以外の男性を想っている、しかも相手があの変わり者の辺境伯となれば、彼の自尊心は傷つくだろう。そうして、アロナへの不満は溜まっていく。


(ちょっと小狡いかしら)


とはいえあまり大々的なことも出来ない。ルーファスの気が変わるように、ちまちまと仕掛けていくしかない。元々この結婚は、ルーファスにとっては政略以外の意味はない。アロナに男性関係の噂が立てば、体裁を気にする彼にとっては不都合だろう。


そこできっと、ククルに頼んだもう一つの頼みが効いてくる。それは、ルーファスに自分以外の令嬢を充てがうことだ。学園に通わず、男性が苦手としてルーファスと会う機会を設けられないアロナよりも、彼と同じ場で学びそういった気も遣わずに済む、フルバート家と同等かそれに等しい家柄の令嬢の方が、きっとルーファスの心を掴むことだろう。


しかしこれが、意外と骨の折れることだった。リュート夫人から借りた名簿をくまなく読みこみ、条件に合う令嬢を探すことは容易いことではなかった。そういった令嬢にはほとんど婚約者がいて、さすがにそこに横槍を入れるわけにもいかない。


幸いというのもおかしな話だが、フルバート家は公爵家といえど悪評が高く裏では関わりたくないなどと囁かれている。


多少爵位が下でも、勢いがあり評判もよければ王妃陛下も認めるだろうと、アロナは思う。


リュート夫人の名簿はかなりこと細かに書かれていたし、ククルからも情報を得ることができる。家柄もそこそこで婚約者がおらず、両親娘ともに信頼のおける人物。


野心家は好ましくない。こちらを裏切らない、情に絆されやすいタイプが理想的だ。


(私は今、王妃に気に入られているわ)


その自分が推薦するご令嬢だ。ただの婚約破棄ではなく、きちんと代替を用意するのならば話も通りやすい。まぁ、実際どうなるかは一か八かの賭けのような部分もあるが。


アロナは時間をかけて、両親に虐げられている、男性が苦手であるといった“同情すべき令嬢像”を、作り上げてきたのだ。


そして男性が苦手であるならば、もしかするとルーファスとは結婚したところで夜伽の役目を果たせないかもしれないと、そろそろそういったことを考慮する年齢にも差し掛かっている。


アロナが指名した令嬢に、ククルがコンタクトを取る。彼女に渡してもらうよう頼んだ手紙には、あくまで「これはルーファスの為である」ということをしたためた。


小さく細かに、一見無駄にも見える積み重ねが、いつか自分を助けてくれるだろうとアロナは思う。それに上手くいかなかった時は、またその時考えればいいと。





「アロナ。ルーファスとカリーナ嬢、最近よく話しているみたいよ。表立ってはさすがに無理なんだろうけど、裏で二人きりで会ってるって聞いたわ」


数ヶ月ののち、ククルから報告を受けたアロナはほっと胸を撫で下ろす。自身の婚約者に女性を充てがうなど非道徳的だとは思うが、カリーナは自分よりもルーファスに合っているとアロナは考えている。


控えめで優しく、他者を慮ることができ気が弱い。侯爵家の長女という地位にありながら、珍しく気位の高くないほんわかとした雰囲気の女性だと、ククルは言う。


それに、あっというまに学園内に広まったアロナの“噂″のおかげもあり、ルーファスには同情が集まっているらしい。多少他の令嬢と仲良くしたところで、彼にもカリーナにも批判が集まることはないだろう。


二人が近づくいいきっかけにもなるし、カリーナからの返信の手紙もアロナを慮るような文面だった。アロナはあえて、カリーナに曝け出したのだ。その結果、カリーナは“ルーファスの相談役”という役目を買って出てくれた。


アロナにとって代わりたいという野心はきっと彼女にはないが、ルーファスはどうだろうか。カリーナは侯爵家の長女。消極的な性格から婚約者が決まらなかったようだが、相手がルーファスであるならばなんの問題もないし、彼だってカリーナの家を継げばあの辛い環境から抜け出せる。


「ねぇアロナ。これってアロナの為になってるの?私にはどっちに転んでもルーファスだけが幸せに見えるわ」

「そんなことないわよ」


ククルに指摘されたが、アロナははっきりと首を横に振る。


“ルーファスとは結婚しない”


アロナは、たったこれだけで良かったのだ。

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