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恋敵、そして友人へ

この家から出ていく為には、大きな問題が二つある。まず、ルーファスとの婚約破棄。そして第二に、辺境伯の説得。ルーファスについては、当初練っていた計画はダメになってしまったものの、ククルはアロナにとってのいい相談役となっていた。


「ルーファスって、アロナのこと本気で好きなんじゃないのかしら」


アロナの屋敷にて、ククルは木陰に敷かれたシートの上に寝そべっている。仮にも王妹の娘とは思えぬ振る舞いだが、ここならば姉達の目を気にする必要もない彼女は、のびのびと過ごしていた。


「そうなるほどの時間を、私達は共に過ごしていないわ」

「じゃあ、もしそうだったらどうするの?」

「どうもしない」


アロナはククルの傍に腰掛けながら、晴れやかな空の眩しさに目を細めた。


「ルーファスは確かに誰にでもいい顔をする頼りない男だけど、悪い人ではないのよね」

「それでも、私が彼と一緒になる未来はないわ」

「昔から、そこだけは絶対に変わらないわよね、アロナは」


ククルが不思議がるのも無理はない。ルーファスは末男とはいえ国の王子であるし、人畜無害な善人だ。このまま結婚となっても、アロナが不幸になる未来がククルに見えないのは、当然かもしれない。


「彼とだけはダメなの。どうしても」

「ルーファスがダメであの“変人辺境伯”がアリなんて、私には理解できない」


ククルにだけは、胸の内を話している。そういわれても、無理なものは無理なのだ。


「ルーファス様といると、私きっといつか死ぬ気がするから」

「そんな、まさか」

「私と彼はそう決まっているの」


例え今ククルが友人という味方になろうともルーファスとの未来だけはないと、それだけははっきりしていた。


三度信じ、そして裏切られた。あの時の絶望が、彼女の中にあったルーファスへの全てを飲み込んでしまった。復讐心もない、愛情もない、本当になにも存在しないのだ。


「まぁ私はあなたの為だったらなんだってするわ。なんなら今からでもルーファスを誘惑して…」

「それはダメよ。あなたには好きな人が居るのだから、その気持ちを蔑ろにしてはいけないわ」

「アロナ…」


ククルの思い人である令息は、家柄も評判も申し分ない。このままいけば上手くまとまるだろう話を、アロナは自分のせいで拗れさせたくなかった。


「私、大好きなアロナにだけは絶対に幸せになってほしい」

「ククル」

「まさかこんなに仲良くなれるなんて思わなかった」


へへ、とはにかむ彼女を見ながら、アロナの心はまるでふわふわの真綿に包まれたようだった。縁とは、本当に不思議なものだ。


(私を殺したがっていたククルが、まるで夢の中の住人みたい)


人は、忘れる生き物だ。それはいい意味でも、そして悪い意味でも。


「そういえば、ルーファスってあの側近の二人を辞めさせたんですって?お母様から聞いた時驚いちゃったわ。もしかして、アロナの仕業なの?」


ころころと芝生の感触を楽しんでいたククルが、突然起き上がる。ルーファスに良く似たヘーゼルの瞳は、好奇心で輝いていた。


「仕業というほどではないわ。少し意見を述べただけよ」

「あなたって意外とお人好しよね」

「私が?」

「そうよ。お人好しで優しいわ」


人生を三度も繰り返せば、人は変わるものなのだろうか。冷たい、血の通わない人形のようだと揶揄されてきた自分が、まさかそんな風に言われるなんて。


(過去の私のことも、忘れたのかもしれない)


かつて恋敵だったククルの笑顔に目をやりながら、アロナはゆっくりと瞼を閉じた。

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