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ある特殊な趣向

アロナはもう二度と誰かを好きになるつもりはないし、なれないだろうとも思っている。あれだけ愛していたルーファスの傍にいても、もうなにも感じない。


(私の中のなにかが壊れてしまったのね)


結婚に愛は要らない。必要なのは身の安全と、両親を納得させられるだけの相手。


もしかしたらロファンソンは、あらゆる意味で自身にとってぴったりの相手かもしれないとアロナは思う。見た目も年齢もどうでもいい。彼女にとって重要なことは、他にあった。


辺境伯という地位や彼の領地が王都からとても遠いこと、それにそういった理解できない趣味を持っているのなら、自分達の間に恋愛のいざこざは絶対に起こらない。


「リュート夫人や他の令嬢方に詳しく聞いてみましょう」


彼について噂だけは知っていても、その他のことはよく分からない。この名簿を作った本人である夫人はもちろん、この手の噂は暇を持て余した淑女達に聞くのが一番なのだ。





「ロファンソン?ロファンソンといえば、あの“幼女趣味の変人”の…?」


後日、招待された茶会にてその名を出すと、皆こぞって怪訝そうな表情を浮かべた。


「あの方は、自身の領地に引きこもってほとんどこちらの行事ごとには参加しません」

「私も直接本人を見たことはありませんが、私の友人が仮の婚約者としてロファンソン領へ出向いたことがあるそうで」


一人の伯爵令嬢がそう切り出すと、一斉に顔を寄せて続きをせがむ。


「なんでも、幼女趣味という噂は紛れもない事実だとか。出迎えたロファンソン辺境伯の傍には五、六歳ほどの少女が何人も居て、彼女らはいかなる時も辺境伯から離れることはなかったそうです。そして私の友人は、こう言われたのだと」


まるで恐ろしい亡霊の話でもしているかのように、伯爵令嬢はじっくりと言葉を溜めた。


「あなたがこの子達のようになれるのなら愛せる道もあるかもしれません、と」


その場にいたアロナ以外の全員が、悲鳴でも上げそうな顔で口元に手をやる。


「やっぱり噂通りの変態なのですね…確か辺境伯のお年は二十も後半でしょうに、そこまで小さな女の子しか愛せないなんて」

「ちょっと気持ちが悪いわ…」

「でしょう?ですから私の友人も、二日と持たずに帰ってきたのだそうです。それに辺境伯領は岩山や渓谷ばかりの寒冷地で、観劇ひとつ出来る場所もないと」


アロナただ一人が、紅茶を嗜んでいる。話を聞けば確かにロファンソン辺境伯は噂通りの人物のようだが、ただ小さな子供が好きというだけ。


高位貴族の間では、十五、六のご令嬢が二十も三十も上の鰥夫の元へ嫁ぐことなど珍しくもないのだから、それと同じようなものではないかと、アロナは思う。


話からの推測に過ぎないが、どうやら嫌がる少女を無理矢理傍に置いているというわけでもないようだし、少なくともアロナにとっては大した問題ではない。


例え仮であろうと婚約者を儲けるということは、生涯独り身を貫く気ではないのかもしれないし、彼の性癖を受け入れ口出ししないと約束出来るのであれば、もしかすると話を聞いてもらえるかもしれない。


「確かに人間離れした美貌の持ち主だったらしいけれど、そのせいで余計に気味悪く感じたんですって」

「そんな方の妻で、しかもあんな場所で暮らすだなんて絶対にお断りだわ」


未だにロファンソン辺境伯の悪口に花を咲かせている令嬢達を尻目に、アロナはティーカップの中の綺麗な飴色をぼんやりと見つめていた。

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