アロナの提案
「アロナ嬢のあの顔見たか?さすが国の貴族一、二を争う美人だ」
「あれでまだ十三だろう?末恐ろしいな」
「母親が貧しい子爵家の出だというだけで殿下の婚約者とは、実に惜しい」
夜、慣れない部屋になかなか寝付けず夜風に当たりにやってきたアロナは、ルーファスの側近二人にでくわした。気付かれないようナイトウェアの裾を押さえ、物陰に隠れる。
「近寄らせてもくれないところを見ると、殿下はアロナ嬢を溺愛しているんだろう」
「しかし噂では、二人は滅多に顔を合わせないらしい。もしかすると、俺達にもチャンスがあるかもしれない」
「結婚しても、きっと殿下じゃ満足できなそうだ。特に、夜の方なんかな」
下品な笑い声に、アロナは気分が悪くなる。
(能力があっても中身がこれではね)
彼女は、四度目にして初めて気が付いた。自身が思っていたよりもずっと、ルーファスは周囲から馬鹿にされていたのだと。
生温い夜風が彼女の頬を撫でる。確かにもう、ルーファスに対する愛もなければ興味もない。けれどなぜかアロナの心は黒い渦に包まれていた。
もしかすると自分は、思っていたよりもずっと愚かな人間なのかもしれないと思う。ククル然りルーファス然り、この身を死に追いやった人物に対してこんな感情を抱くなど、頭がおかしいとしか思えない。
それともこれは、自らを慰めたいが為の感情なのだろうか。両親の駒としての人生、愛の報われなかった人生、そんな自分を少しでも救いたいと思う気持ちの裏返し。
(確かに私は殺された。それも三度も)
あの恐怖は細胞の一つひとつに染み込み、永遠に消えて無くなることはない。それなのになぜ、この恐怖が復讐という原動力にはならないのか。
結局は私も、欠陥品であったということか。
未だに下衆な会話を繰り広げているダイノとエドモンドに侮蔑の視線をやると、アロナは踵を返し部屋へと戻った。
「ルーファス様、お話があります」
翌日アロナは、早速行動を起こす。もちろん、二人きりの時間に。
「ダイノ・クルーガーならびにエドモンド・レオニクルを、ルーファス様の側近から外してはいかがでしょう」
突然の申し出に、ルーファスは当然困惑する。そもそも彼らを選んだのは、彼の意志ではなく母であるシャロンだ。二人を側近から外すということは、即ちシャロンの意に背くということ。今までルーファスは、些細な事柄の一つすら両親に逆らったことはないのだ。
「どうしてなのか聞いてもいいかな」
「あの二人はルーファス様には合わないのでは、と」
「それは彼らが優秀で、僕がそうではないから?」
ルーファスの表情が曇る。きっと彼自身も、ダイノらと居ることで自尊心が傷ついているのだろう。
「いいえ」
アロナはきっぱりと否定する。
「あなたが優しい方で、彼らがそうではないからです」
「アロナ、それは…」
「ルーファス様は、心から彼らを信頼していらっしゃいますか?本当は思うところもあるのでは?」
的確な指摘に、ルーファスがぐっと言葉に詰まる。確かに二人が自分を下に見ていることは、ルーファス自身も感じていたからだ。




