一度目は、毒矢
どういうわけかアロナは、もう二度も同じ人生を繰り返していた。一度目は刺客からの毒矢を受け、高熱に苦しんだのち衰弱して死んだ。ベッドの傍で毎日アロナの手を握り、ほろほろと涙を流すルーファスの姿を、今でも鮮明に思い出せる。
本当に悔しかった。愛する人を残して死ななければならない、己の運命が。
そして。
「分不相応なことをするから、惨めに死ななければならないのよ。地獄で後悔することね」
つい先程までルーファスが居たその場所でククルが高笑いするのを、アロナは朦朧とする意識の中でただ聞いていることしか出来なかった。
痛い、苦しい、身体がばらばらに千切れそうだった。
「いい気味だわ。お姉様達もさぞ、あなたの無様な姿を目にしたかったことでしょう」
「…っ、か…は……っ」
「あははっ、何を言っているのかさっぱり分からないわ。気持ちわるうい」
医者や侍従達は、彼女によって部屋を出されているのだろう。彼女はアロナにだけ、邪悪な本性を晒したのだ。
どうせもう死ぬのだから、誰にも言えるはずはないと。
身体的な苦しみに加え、ククルに毒を盛られたと知ったアロナは、絶望の中力尽きた。せめて死の瞬間は、ルーファスに見守られていたかったのに。
「さようなら。お邪魔虫さん」
ククルの可愛らしい笑顔が、アロナの目に映った最期の記憶だった。彼女の瞳から流れた一筋の涙は、愛しい人に届くことはなかった。
「ーー意味が分からないわ」
アロナは最初、ここは天国なのだと確信していた。だってそうでなければ、説明がつかない。
鏡に映る自分の姿は、紛れもなく幼い子供なのだ。
(おかしい、あり得ないこんなこと)
ちゃんと記憶が残っている。自分がククルに毒を盛られ、その生涯を終えたことを。
それともそちらの方が、悪い夢だったのだろうか。アロナは混乱し、数日の間部屋に篭った。そしてルーファスの姿を見て、彼女は確信する。
「やあアロナ。今日はなにして遊ぼうか」
(ああ、私の愛しいルーファス)
あの記憶は、決して夢などではないのだと。
彼もアロナと同じ五歳の姿で、涙ぐむ彼女を見ておろおろと慌て始めた。
「どうしたのアロナ、どこか痛む?よしよししてあげる。ほら、ハンカチも」
「ルーファス、様…」
「君が泣くところなんて初めて見た」
困ったように眉を下げながら心配そうに私を見つめるルーファスに、アロナの胸は釘を打ち込まれたように痛む。
(もしもあれが未来に起こることならば、私はまたククル様に…)
そう考えた途端、嗚咽が漏れる。けれどそれでもアロナは、ルーファスから離れたいとは思えなかった。