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操り人形

「実は、将来は両親から離れ王都ではないどこか長閑な場所で、静かに過ごしたいと考えているのです」


憂いを帯びた表情で口にすれば、ククルの瞳が大きく見開かれた。おそらく、予想していた答えと全く違っていたのだろう。


「ルーファス様にはお伝えしておりますが、私は男性が苦手です。父からの躾と称した折檻が原因で、恐怖を抱くようになってしまったのです」

「……」


まだ幼く何でも口にしてしまうククルだったが、流石に気まずそうな表情で口を噤む。


なぜならアロナの父サムソンは、それを平気でやってのけそうな人物だからである。規律を重んじる姿勢は信頼に値するものではあるが、彼はそれを他人にも押しつけるきらいがあるのだ。


いわゆる、堅物で融通の利かない頑固な性分。相手にするのは、とても面倒くさい。


「理由まで話すのは、ククル様が初めてです」

「意味が分からないわ。なぜ私にこんな話をするの?」

「それはあなたが、私の味方になってくれると思っているからです」


ククルは、アロナの言葉が信じられなかった。アロナに対してキツくあたっている自覚のある彼女は、そんなことはあり得ないと思っていた。


「ククル様がルーファス様のことを心から慕っていらっしゃることは、私にも分かります。円満にこの婚約を解消する為には、ククル様の協力が不可欠なのです」

「婚約、破棄…?あなた、ルーファス様との婚約破棄するつもりなの!?」


声を張り上げたククルに向かって、アロナは小さな子に言い聞かせるような仕草で、自身の唇にそっと指を立てた。


侍女や護衛を少し離れた場所に待機させているとはいえ、話を聞かれるのは好ましくない。


「今すぐには無理です。こちらからそんな申し出をすれば、フルバート家の信用は地に落ちるでしょう。そうなれば父は私を殺すか、地位を持った老公爵の妾にでもするかもしれません」

「わっ、私にはそんなこと関係ないわ!」

「名に傷がつくのはフルバートだけではありません。当然ルーファス様も責任を問われ、仮にククル様と恋に落ちたとしても近親婚の申し出はまず認められないでしょう」

「そんな…っ」


ククルの表情が絶望に染まる。アロナは内心ほくそ笑みながら、再び憂いを帯びた演技を続けた。


「ですから私達はいがみ合うのではなく、手を取り合うべきなのです。互いの未来の為に」

「だけど…そんなの…っ」

「私はククル様の敵ではありません。むしろ、お二人が幸せになることを望んでいるのです」

「アロナ…」


やはり、嫉妬に狂って公爵令嬢に手をかけるだけあって、思考が短絡的で操りやすいとアロナは思う。これがエルエベであったなら、こうはいかないだろう。


彼女はおそらく、ククルのようにルーファスを愛しているわけではない。自尊心の塊のようなエルエベにとっては、自身は邪魔でしかなかったのだろうと、アロナは考える。


事ある毎にエルエベとアロナは比較され、その度にアロナが賞賛された。


エルエベはそれが許せず、アロナが憎くて堪らなかったのだ。


(ククルの幸せなんてどうだっていいわ)


アロナは、全く興味がなかった。幸せになろうが不幸になろうが、どちらでも構わない。


ただ四度目の自身の未来が穏やかであれば、それだけで良かった。

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