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普段無表情のアロナが笑顔を見せたことで、令嬢達の間では様々な憶測が飛び交う。否定的な意見の方が多かったが、彼女にとってそんなことは想定内だった。


エルエベ、そしてローラはアロナの真意を推し量るように様子を窺っていたが、末のククルは違った。


あからさまに頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。


「なによあんなの!どうせルーファス様に取り入る為の作戦じゃない!ああ、本当に嫌い!」


今のククルはまだ八歳だが、彼女の心は立派に恋する乙女だった。四年前、まだ四歳だった彼女には、大好きな従兄弟のルーファスに婚約者ができたという意味を、いまいち理解していなかった。


けれど今は違う。ただでさえ近親間の結婚が暗黙のタブーであるというのに、それに加えて恋敵までいるとは。


いつのまにか全ての事柄はアロナのせいとなり、ククルの中では彼女が諸悪の根源として鎮座していたのだ。


「ククル様」


アロナはゆっくりと彼女の席に近づくと、綺麗に微笑んでみせる。


「少し庭園を散歩しませんか?」

「はぁ!?どうして私があなたなんかと」

「一度ゆっくり話がしてみたいと思っていたのです。ククル様の大切なお時間を、どうか少しだけ私にくださいませ」


この人生では、アロナはルーファスとの交流がほとんどない。それでもククルにとっては婚約者だというだけで目の上のたんこぶだが、今のうちに脅しておけばなんとかなるのではないかという打算が芽生えた。


無機質で淡々としているように見えて、実際は権力に屈する臆病者なのかもしれない、と。





「今の時期は色とりどりの花が咲き、目にも美しい季節ですね」


共に侍女を従え、二人は庭園の石畳をゆったりと歩く。実際心に余裕があるのはアロナだけだったが。


「それで?一体何が目的でこの私をわざわざ呼び出したのかしら」


ククルはふんと鼻を鳴らし、アロナを睨みつける。少しでも自分を大きく見せようと胸を張り背筋をうんと伸ばしている彼女の姿に、アロナは微笑ましさすら感じてしまった。


(こうして見ると、本当に愚かで可哀想になるわ)


以前までの自分も周囲からはこんな風に見えていたのかと、アロナは思う。当事者である時には分からなかったことが、今は冷静に判断できる。


「ククル様」


アロナは立ち止まり、群青色の瞳でククルを見つめた。


「私は、ルーファス様の婚約者です」


そう切り出されたククルは、一瞬にして頭に血を上らせた。


「だからなんだと言うのよ!?所詮は家柄同士の、愛も何もない結婚のくせに!」

「ええ、おっしゃる通りです」

「は…?」


まさか肯定されると思わなかったククルは、思わず目を剥く。


「私とルーファス様は確かに婚約を結んでおりますが、それはククル様のおっしゃる通り家同士の決めたこと。特に、王家からの申し出ですから私に選ぶ権利などないのです」


アロナの表情は嘘を吐いているようには見えなかったが、その裏に隠れた相手の真意を推し量るには、ククルはまだ幼過ぎた。


「ククル様もご存知でしょう?私とルーファス様が、ほとんど顔を合わせていないことを」

「それは…知っているわ」

「つまり私達は、思い合っているわけではないのです。互いに」


雰囲気に呑まれそうになるククルだったが、再びきっとアロナを睨みつけた。


「どうしてそんなことを私に言うのよ!何か裏があるとしか思えないわ!」

「裏がないと言えば嘘になります」

「ほうら、やっぱり!」


ククルは勝ち誇ったように顎を上げる。


けれどアロナは、寸分も動揺を見せることはなかった。

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