不思議と平気
三年越しの再会は、実にあっけなく幕を閉じた。あれだけ執着していたのに、感情とはなんとも不思議なものだとアロナは思う。
ルーファスの顔を見ても、もう何も思うことはない。ただ、同じ道を辿るのだけはごめんだった。
だから今回の人生では、上手く婚約破棄ができるよう少しずつ布石を打たなければならないのだ。
「ルーファス様!」
にこにこと楽しげに話す彼に相槌を打つアロナ。その背後から、小鳥の囀りのような可愛らしい声が飛んできた。
ぴょん、と登場してみせたのはククルだった。
「ククル、どうしてここに?」
「ルーファス様がいるって聞いて、急いで馬車を飛ばしてきたの!会いたかったから!」
屈託のない笑みでそう口にするククルは、可愛らしさの塊だった。
薄桃色の髪の毛に、ルーファスと同じヘーゼル色の瞳。風が吹いたらそのまま飛んでいけるのではと思うほどに、ふわふわと膨らんだドレス。
アロナよりも二つ歳下のククルは、実年齢よりももっと幼く見える。
「本当に会えるなんて、今日はなんて素晴らしい日なのかしら!」
「僕達もククルに会えて嬉しいよ。ね、アロナ」
「ええ、そうですね」
不思議な程に、アロナにはなんの感情も湧かない。対照的にククルの瞳は、激しい嫉妬に燃えていた。
自身を恋敵としてそんなにも憎らしく思えるのだから、いくら幼く見えてもやはり彼女は女なのだと、なぜか感心すらしてしまった。
「もうククルったらそんなに走って、淑女としての振る舞いとは思えないわ」
「仕方ないわよお姉様。だってククルは、この世の何よりもルーファス様のことが大好きなんだもの」
彼女に続き、エルエベとローラも二人の元へとやってくる。
「あら、ごきげんようアロナ」
ククルと違いエルエベとローラはいくらかマシだったが、それでもアロナに向ける視線は酷いものだった。
まるで娼婦でも見ているかのような、蔑んだ眼差し。
(三人揃うと、やっぱり気分は良くないわね)
いや、撤回しよう。気分が悪いどころではなくクソくらえとでも言いたくなる。
復讐などという時間を無駄にするようなことはしないが、それでもせいぜい苦しんで死ねばいいと思うくらいには、アロナは三人のことが大嫌いだった。
自分を三度も殺した相手を、好きになれるはずもない。
「ルーファス様。今日もとっても素敵ね」
「ありがとう。ククルも可愛いよ」
今世では、アロナは物事を客観視することができるようになっている。目の前のこの光景を見て、それでもルーファスから愛されているのは自分だとよく思えたものだと、彼女は改めて過去の自分を憐れんだ。
「お久しぶりです。エルエベ様、ローラ様、ククル様。お変わりないようで何よりでございます」
完璧な淑女の礼をして見せたアロナは、ルーファスを含む四人に向かって綺麗に微笑む。
「私は失礼させていただきますので、どうぞごゆるりと」
「えっ、アロナ?」
「ルーファス様。本日はお招きくださって、本当にありがとうございました」
着席してまだ幾らもたたないうちに、アロナは既に帰ろうとしている。
三年振りにまともに顔を合わせたのにと、ルーファスは彼女を引き止めようとした。
「ルーファス様」
アロナは、ふわりと微笑む。
「お会いできたこと、光栄に思います」
「ま、待ってアロナ」
伸ばした手は、ククルに絡め取られる。ルーファスはアロナの後ろ姿を、なんとも言えない心持ちで見つめた。
「ルーファス様、ククルと遊びましょう」
「いや僕は…」
「あら、良いではありませんかルーファス様。アロナ嬢も色々と忙しいのでしょう」
「だけど婚約者を蔑ろにするなんて、酷い人ね」
次々に飛び交う悪口も、アロナの耳には入らない。
(家に帰ったら、改めて紅茶を飲みたいわ)
口直し、なんて。
アロナは馬車の中で一人、ふふっと小さな笑みを浮かべた。




