表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/107

優秀な家庭教師

その後アロナは、乳母の代わりに侍女と家庭教師をつけられることとなった。特に家庭教師は、王族からも名指しで指名されるほど優秀であるという、リュート伯爵夫人。


「初めまして、アロナさん」


(お久しぶりです、リュート夫人)


アロナにとっては、四度目の再会。幼女とは思えぬ所作でカーテシーをしてみせるアロナに、夫人は目を見張る。


「本格的な淑女教育は初めてだと伺っていますが、とてもそうは思えませんね」

「お褒めに預かり光栄です、夫人」


流石に同じことをもう三回も繰り返していれば、目を瞑っていても完璧にダンスを踊れるくらいには、飽き飽きしている。


今回の人生で、アロナはルーファスと結婚するつもりは毛頭ない。別に手を抜いてもよかったのだが、彼女の目的はむしろリュート夫人にあった。


こと社交界においてリュート夫人の権力は絶大だが、彼女は以前エルエベとローラの家庭教師という任を解かれた経験があり、それが彼女の経歴に傷をつけていた。


ちなみにこの時点ではまだ、ククルは赤ん坊のようなもの。まぁ、仮に彼女が姉達と同じようにリュート夫人のレッスンを受けていたとしても、三日も保たないだろうとアロナは思った。


リュート夫人は、確かに有能だ。それゆえに、出来ない者の気持ちが分からない。


アロナは厳しく躾けられることには慣れていた為に、リュート夫人のレッスンに付いていくことは可能だった。


けれどそれはあくまで、事務的なもの。彼女との信頼関係は薄っぺらいものであったし、リュート夫人もまたアロナをただの生徒としか思っていなかった。


(味方につければ、きっと私を助けてくれるわ)


心の拠り所であったルーファスはもう、アロナの中には存在しない。それならば他に目を向け、少しでも円満に婚約破棄を進められるよう準備を進めなければ。


基本の所作や立ち振る舞い、小物の使い方、話し方に至るまで。リュート夫人が課す課題の数々を、アロナは粛々とこなしていく。


そうして一年が経った頃、リュート夫人は社交界でも度々アロナの名前を出すようになったと、母であるグロウリアが鼻高々に自慢しているのを聞いた。


(決してあなた達の為ではないのに)


上手く誤解してくれるのなら、それはそれでやりやすい。恋心という不安定なものを取り払った彼女は、周囲から見れば正に無敵だった。


人形のように美しい、完璧な公爵家の娘だと。


「本日のレッスンはこれにて終了です」

「リュート夫人。よろしければご一緒にお茶でもいかがですか?」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


アロナはこれまでの人生でも、常に完璧だと囁かれてはいた。けれど、エルエベ達がことごとくそれを邪魔したのだ。


根も葉もない噂を流し、アロナを陥れようと必死だった。相手は王妹の娘、他の令嬢も彼女達を無下にはできなかったのだ。


しかしこの一年、アロナはルーファスと顔を合わせていない。遊ぼうという手紙が来るたびに、何かと理由をつけては断っていた。


初対面で吐いた嘘が、どうやら効いているらしい。優しいルーファスは、彼女に無理強いをすることはなかった。


「リュート夫人」

「はい」


二人きりのお茶会は、淡々と進む。アロナは、リュート夫人のことが決して嫌いではなかった。母親よりもずっと、信頼のおける関係だ。


「私は、あなたのような母親が欲しかったです」

「アロナさん、急にどうされたのですか」

「すみません。少しだけ、肩の力を抜きたくて」


リュート夫人は、内心アロナの両親を軽蔑していた。そして今は、その娘アロナに対し同情に近い感情を抱いている。


表情は乏しいものの、彼女は自身が受け持った中で一番の優秀な生徒であり、心を許してくれていると感じる、可愛らしい子。


できることならば、力になってやりたいと思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ