覚悟の愛
アルベールの自室へとやってきた二人だが、アロナの顔は真っ赤だった。
「君は本当に可愛いね」
「もっ、もう。からかわないでください」
「全て本心だよ。思っていることはきちんと伝えようと、決めたからさ」
一階の廊下からここまで、これでもかというほどに甘い言葉を囁かれ続けたアロナの耳は、もうふにゃふにゃになっていた。
彼についてアストフォビアへとやってきてから毎日、ずっとこの調子だ。アルベールはアロナへの好意を隠すことなく、言葉や態度で示している。
そのくせ、少し指が触れただけで端正な顔が恥ずかしそうに赤く染まるものだから、アロナにまで移ってしまうのだった。
「さぁ、座って。君の好きな銘柄の紅茶があるんだ。それに砂糖も」
にこにこと笑いながら、アルベールは自身でお茶の用意を始める。アロナがこの部屋に来る時はいつも、彼は使用人を退出させてしまうのだ。
自分がやるからと進言したこともあるが、潤んだ瞳で「君のために僕がしたい」と言われてからは、大人しく座っていることに決めた。
「いつもありがとうございます、アルベール様」
「これは口実だからね。僕が君と二人きりの時間を過ごすための」
「…い、いただきます」
恥ずかしそうに視線を逸らすアロナを、アルベールは嬉しそうに見つめている。
彼に対してなんの感情も抱いていない時は気にならなかったのに、こういう関係になってからはその端正な顔立ちがやたらと輝いて見えるのだから、手に負えない。
太陽の光をめいっぱい取り込んだようなさらりとした金髪は、思わず触りたくなってしまうほどに滑らかだ。深い青色の瞳は、神龍達の住まう神秘の地底湖に負けず劣らず綺麗だし、薄くて形の良い唇から発せられる声も、高低のバランスが丁度良くずっと聞いていたくなる。
そしてなにより、笑顔が素敵だ。最初に向けられていた、貼り付けられたような底の知れぬ笑みではなく、心の内が溶けだしたような甘い微笑み。
とろりと瞳を細め、白く滑らかな頬を紅く染め、照れを含んだその可愛らしさにも心を鷲掴みにされる。
もちろん見た目だけではなく、アロナの気持ちを最優先に考えているのが随所で伝わってくる。
こんな風に愛を囁いても、彼は決して無理強いをしない。アロナの知らないことを面白おかしく話しながら、可愛い可愛いと常に褒める。
自分の存在そのものをこれだけ肯定してくれる人は、確実に彼以外存在しない。
失敗続きの人生を何度も繰り返してきたアロナにとって、なによりも嬉しいと感じることだった。
「どうしたんだい?ぼうっとして。体調が良くない?」
アロナの顔を覗き込みながら、アルベールが心配そうに眉を下げる。
「そうではありません」
「なにかあったら、いつでも話して。君のタイミングで構わないから」
優しい声色でそう言って、彼は再び鼻歌まじりにお茶の準備を進める。
(アビゲイルの言う通りだわ)
アロナは未だに、アルベールに対する気持ちをはっきりと言葉にできていない。それは恥ずかしさもあり、申し訳なさもあり、本当に自分で良いのかという自信のなさもあり、様々な感情から二の足を踏んでいるわけである。
彼はアロナに無理強いすることなく、歩調を合わせ寄り添ってくれる。そんなアルベールに、いつまでも苦しい思いをさせるわけにはいかない。
(だって私はもう、とっくにアルベール様のことを好きになっているもの)
大好きな人にはその気持ちをきちんと伝えようと、アロナは覚悟を決め立ち上がった。




