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再びアストフォビアへ

♢♢♢


「へへっ、これもらいっ」

「あっ、ダメよカーニャ!それはエイミにあげようと思っていたお菓子なのに」

「ぼさっとしてるアロナが悪いんだよ〜」


悪戯っぽい笑みを浮かべながらたたっと階段を駆け降りていく短髪の少女、カーニャの後ろ姿を見つめながらアロナはため息をつく。


「追いかけたらいいのに」

「無茶言わないでマルマ。私があの子に追いつけると思うの?」

「ぜーんぜん!思わない」


カーニャよりも小さなマルマはまんまるの目を瞬かせながらそう言って、自身も駆け出していった。


「心配しないでアロナ。こうなるだろうと思って、もう一つ同じものを用意しているわ」

「アビゲイル、ありがとう。あなたは本当に賢いわ。一緒にエイミの所へ行きましょう」

「ええ、喜んで」


一番年上で落ち着いているアビゲイルと共に、アロナはエイミの居る部屋へと足を進めた。


アルベールと共にアストフォビアへ来てから、早いものでもう三か月が経つ。


洞窟の奥深くに暮らす神龍の長・ルタは見事に快復し、アルベールもアロナもほっと胸を撫で下ろした。特に彼の重圧はどれほどのものだったろうと、アロナはアルベールの気持ちを慮った。


ルタの快復により、マルマ、カーニャ、アビゲイル、そしてエイミの四人の神龍の子共達は、もうロファンソンの城で暮らす必要がなくなった。


にも関わらず誰一人として洞窟に帰ろうとしないので、アルベールの幼女趣味の噂は未だに晴れることはない。アロナはたびたび周囲から同情めいた瞳を向けられるが、本人は全く気にしていない。むしろこの生活が、楽しくて仕方がなかった。


父親の持つ激しい男尊女卑思考をしっかりと受け継いだ兄三人は、もちろんアロナを見下した。家族の楽しい思い出などひとつもなかったアロナにとっては妹が一気に四人もできたような気分で、彼女達のことが本当に可愛かったのだ。


エイミは普段、アロナが使っている部屋のクローゼットで暮らしている。アルベールやアロナには懐いているが、それでも彼女はマルマ達と比べるととても繊細で、一日中出てこないことも珍しくない。


アロナはエイミの好きにさせていたし、空腹なのではと感じた時にはクローゼットの扉を優しくノックしてお茶に誘った。


最近では、エイミの方から抱きついてくれることもあり、そんな時は可愛さに内心悶絶しているアロナであった。




「アロナ」


アビゲイルと共にエイミの元へ向かう途中、少し低めのよく通る声が後ろからアロナを呼び止めた。


振り向かずとも、すぐに誰だか分かる。


「アルベール様」

「エイミに会いに行くのかい?」

「ええ。お菓子を渡そうかと」

「それはあの子も喜ぶね」


中性的で綺麗な顔に浮かべられた笑顔は、まるでサプライズプレゼントをもらった子供のようだった。アビゲイルはその様子を見て、やれやれと肩をすくめる。


「あなたの鼻の下が絨毯にくっつきそうだわ、アルベール」

「アビゲイル。そんな意地悪を言わないで」

「いいじゃない。幸せそうで良かったわねって意味よ」


アビゲイルはそう言うと、アロナの手からリボンの掛かったお菓子の袋を取った。


「これは私がエイミに渡すから、アロナはアルベールの相手をしてあげて?。キスをする時は、マルマに気づかれないようにちゃんと部屋でお願い」

「ち、ちょっとアビゲイルったら」

「もう十六になったんでしょう?アロナのペースで進んでいたら、アルベールはおじいちゃんになってしまうわ」


(アビゲイルは私より年下なのに、おませさんなのね)


と言っても、神龍が歳を取るスピードと人間のそれは比べものにならない為に、比べることは不可能だとアルベールから聞いたことがあるが。


「ほらアロナ。マルマに邪魔される前に早く」


とんと優しく背を押され、アロナとアルベールの距離が近づく。


「ありがとう、アビゲイル」

「ふふっ。頑張ってアル」


可愛らしい笑みを残し去っていくアビゲイル。アルベールは柔らかな笑みを浮かべながら、アロナに向かって手を伸ばした。

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