うたた寝から目が覚めたら時間が停まっててお母さんに叱られた件
朝7時に目覚めて、色々して、朝の卵かけご飯をだるりん、もしゃもしゃと片付けて、学生鞄を手に提げて、「行ってきまーす」と両親に告げて、玄関に向かって階段を下りながら、あたしの口から同じ言葉がしつこく漏れ出た。
「眠い……」
「眠い……」
「眠いよぅ……」
階段を下りきったあたしは玄関の前をスルーして、おばあちゃんの部屋のほうへ向かった。
襖の向こうで大音量でテレビが鳴っている。耳の遠いおばあちゃんは、あたしが木の廊下をみしみし言わせて歩いて来ることに気づいてないだろうな。直前であたしは右を向き、手前の部屋の襖をすたんと開けた。
広い和室に入ると襖を閉めて、青々とした畳にテンと背中をつけて、手足を伸ばして寝転ぶ。
ああ、なんて気持ちがいいんだ。
学校行くよりずっとこうしていたい。
耳に突き刺さって来るおばあちゃんのテレビの音も気にならなかった。
『ここで5分だけ寝よう』
あたしはそのままいつの間にかとても平和な眠りの世界へ落ちていた。
目を覚ますととても静かだった。
おばあちゃんはテレビを消してお昼寝しているのだろうか。
天井の木目も時間が停まったように動かない。
あ、これは元々動かないものだったか。
むっくり起き上がって柱時計を見る。
7時47分。
あたしがここに寝転んだ時から動いていない。壊れているのだろうか。
スマホを取り出して、そっちの時計でも確認しようとしたけど、つかない。いくらやっても画面が真っ暗。なんだこれ。
あぁ、なんだ。
時間が停まってるんだ。
そう気づいたのは窓の外ではらはらと落ちてる庭木の葉っぱが空中に貼りついたみたいに停まってるのを見たからで。
よく見るとスズメも空中でかわいく羽根を広げて停まってる。
すごい、あたし、こんな能力あったんだ?
これなら学校も余裕で間に合うし、もっとここで寝てていいよね?
おやすみなさい。
次にあたしが目を覚ますと身体が重かった。
よっこいしょ、と言いながら起き上がると、腰がぐきっと言った。
顔を触るとシワだらけ。
なんだかやたらと息苦しい。
鏡を見ると、老婆が映った。
あぁ、そうか。
時間って、相対的なものだって、習った気がする。
周りのものが停まって見える速度で、あたしだけは時間が経ってたんだな。
つまりあたしは物凄い早さで年をとっちゃったんだ。
はははははは。
あっはっははは。
戻して!
やだ! こんなのやだ!
周りの空気も停まってて、あたしはそれを吸い尽くしていたのであっという間に窒息して、
目が覚めると怖い顔でお母さんが見下ろしてた。
「学校サボったのっ?」
そう言われて柱時計を見ると12時46分。
おばあちゃんのごはんを持って来たお母さんに見つかったようだ。
夢でよかったと胸を撫で下ろす。
「よかったぁ……」
心からにっこり。にっこり笑顔。
お母さんに後頭部をはたかれた。