~第722夜~「9色にわかれた世界」
「9色にわかれた世界」
赤ん坊が生まれました。
赤ん坊はやがて成長し、知性を獲得します。
彼は(あるいは彼女は)自分が電子生命体だと知っています。
だって、そう教えられて育ってきたのだから。
赤ん坊は全部で9体作られました。
が、その内の1体は目覚めることも成長することもなく、今もって眠り続けています。
赤・青・紫・桃・黄・緑・灰・黒、そして白。全部で9体。
その内、いまだ眠り続けているのは白の赤ん坊だけ。
残りはスクスクと成長し、少年少女となりました。
8人の少年少女たちには、それぞれ国が与えられました。
それぞれの色を冠した国。そして、国民たちが暮らしています。
白の赤ん坊だけは眠り続けているので、国もなく国民もいません。
8人の少年少女たちには、それぞれ特殊能力が与えられています。
同じように、それぞれの国の国民たちにも同系統の能力が与えられています。ただし、王である少年少女たちに比べると劣化した力が。
たとえば、緑の国の国民に与えられたのは“植物を操る力”
ありとあらゆる植物の成長を促進させ、収穫量を増やす。あるいは、新種の木や花を生み出すといった力。
最強なのはもちろん、緑の国の女王である少女。国民たちは、緑の国の女王の能力を部分的に有しているに過ぎません。
プリオとポステリは、自分たちの力を9人の赤ん坊にわけて与えたのでした。
なぜなら、1人に集中して与えると、万能過ぎて飽きてしまうか、最後には戦争を起こして遊ぶだけの存在になってしまうから。
万能の力を9つにわけることでバランスを取ったのです。
*
青の国を治めるのは、少女ベレネッタ。
能力は“水を操る”というもの。水は“万物の根源”とも呼ばれ、農業・工業・日常生活などに欠かせません。
たとえば、飲み水や動植物の生育に必要なのはもちろんのこと、鉄を冷やしたり、物を洗ったりもできます。
戦闘の際には、水を圧縮して噴出させることで、銃や鋭利な刃物のごとき能力に変えることもできるのでした。
…とはいえ、通常は平和利用に使われています。
青の国は、いたるところに泉が湧き出る水の豊富な土地です。
住民たちは水のごとく落ち着いた性格の人が多いのが特徴。ただし、水は濁流のように激しく襲いかかってくることもあります。同じように、人々の心も時として激しく荒れ狂うこともあるのでした。
王女ベレネッタは、王宮の窓からボ~ッと遠くを眺めながら、考え事をしていました。
「どうなさいました?ベレネッタ様」と、声をかけてきたのは教育係のプロミシア。
もちろん、プロミシアも電子生命体の一種です。なにしろ、この世界そのものが電子の創造物なのですから。
「ねえ、プロミシア?」と、話しかける王女ベレネッタ。
「ハイ?なんでしょうか?」
「生きてて虚しくならない?だって、私たちは現実に存在していないのでしょう?」
プロミシアは王女の言葉をかみしめるように頭の中で反芻してから答えました。
「そうですね。そのように考えたコトもございます。けれど、“存在する”とはなんでしょうか?物理的な身体を持っていないからといって、それは存在していないことになりますか?」
「なるでしょう」と、即答するベレネッタ。
近くに湧き出ている水を片手ですくってみせてから、プロミシアは言います。
「では、こんな風に触れられるのはなぜでしょう?ここには水の感触も冷たさも存在しています。それだけで充分なのでは?」
フ~ッと、一息大きなため息をついてからベレネッタはさらにたずねました。
「生きるってなんでしょうね?こんな体で、私たちって生きてるって言えるのかな?」
「では、逆に問いますけど。物理的な体を持っていれば、それだけで生きていると言えると?」
「言えるでしょ?」と、ベレネッタはまたもやプロミシアに即答します。
「かつて人類は肉体は持っていたけれど、心は虚しさに支配されていた人が多かったと聞きます。おそらく“生きる意味”を問いかけたり、虚しさを感じたりするのは、肉体の有無には関係ないのではないかと」
「生きる意味を考えたり、虚しさを感じるのは、肉体の有無に関係ない…」と、口に出して繰り返すベレネッタ。
「そうです。ベレネッタ様がそのようにお考えになるのは立派なコト。それは哲学の始まり。けれども、あまりにも深く思考にハマり過ぎるのも危険かと」
「もっと気軽に生きろと?」
「ハイ。ベレネッタ様にはベレネッタ様なりの役割というものがございます。まずは役割をまっとうしてはいかがかと」
「役割…国民の幸せを考えろと?電子の存在に過ぎない消えゆく泡のような国民のために?」
「その通り。たとえ、それがいかに儚い存在であろうとも。彼らは、あなた様の民なのですから」
フ~ッと、もう1度大きくため息をついてからベレネッタは答えました。
「ここに存在しているかどうかにかかわらず、私は私の役割をまっとうするしかない…か」
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




