~第715夜~「箱の中の世界(その12)」
神様の能力を得たアリ人間のエルピージョが最初に願ったのは「妻であるレーベを生き返らせてくれ!それも若い時の姿で!」でした。
エルピージョの願いはすぐに聞きとげられます。
初めて出会った頃まんまの姿で、赤アリ人間のレーベが現われました。
「あなた…誰ですか?それに、ここはどこ?」
キョトンとした表情でたずねるレーベ。
「ああ、そうか。“若かった頃の姿で”と願ったから、記憶も当時のモノなのか。ならば…姿はそのままで、レーベの記憶を死の直前まで与えたまえ!」
エルピージョはそう気づいて、次の願いをとなえます。
「エルピージョ!エルピージョなの!?それに、この姿は一体?」
若く美しい赤アリ人間のレーベは、自分の姿を見て驚きます。
なにしろ、彼女の記憶によれば、さっきまでの自分は巨大な女王アリだったのですから。それも、死の直前の。
あわてふためくレーベに、エルピージョは順を追って説明していきます。
「…というわけで、どうやら僕は神様と同じ力を手に入れたみたいなんだ。どんな願いも思うがまま。ホラ、こんな風に!」
そう言うと、エルピージョはレーベと初めて会った頃と同じくらいの年齢にまで戻りました。もちろん、現在の記憶は維持したまま、切断された左手も再生した姿で。
「ほんとだ!」と、驚くレーベ。
「それで、これからどうすればいいと思う?」
「どうすればって?」
「せっかく神様と同じ力を手に入れたんだ。この力を使って、何かをするべきじゃないかな?」
エルピージョの質問に、しばし頭をひねって考えるレーベ。
「そうねぇ…やっぱり、理想の街を作るべきじゃないかしら?私たちが若い頃に願ったように。あ!今はもう若い時の姿に戻っちゃってるけど」
「理想の街か…そういうのもいいかもしれないな」
そう答えると、さっそくエルピージョは作業を開始しました。
*
目の前に広がる広大な街。
地面の下に作られた巨大な巣は全て特殊な金属製で、大きな地震にも耐えられる構造となっています。
もちろん、この世界に“お金”などというモノは存在せず、衣食住は完全に保障され、必要なだけの物資やエネルギーが全アリ人類に与えられているのです。
「完成したわね。理想の街」
レーベの言葉に静かにうなずくエルピージョ。
「ああ。これでようやく静かに暮らすことができる」
理想の街作りを始めた当初は、超多忙な日々を過ごしていたエルピージョ。
新しく仲間を増やすことから始め、人々の意見を聞き、インフラなど必要な物を整えていきました。
もちろん、心の中で願えばなんだって瞬時にかなってしまうのですが、それでも願いの数が多過ぎて、目が回るほど忙しい日々を過ごしていたのでした。
「神様!食べる物を出してください!」
「神様!安全で頑丈な家を作って!」
「神様、神様!僕に素敵な恋人を!」
「神様、働かなくなってよい世界になったのはありがたいのですが、退屈過ぎでどうしようもありません。何か遊び道具をお願いします」
…と、この調子。
そのたびに、エルピージョは「僕は神様じゃないんだけどなぁ。みんなと同じだと考えてくれ」と言いながらも、全員の願いを逐一かなえていきました。
「まあ、しょうがないわよ。あなたは神様に匹敵する力を手にしたんだから。みんなのためにがんばりましょう♪」と、その都度はげましてくれたレーベ。
食糧が無限に生産できる工場を作ったり、服や靴も自分の好みの物をその場で出力してくれるマシーンを生み出したり。どこにいても誰とでも通信できる機器を全員に配ったり。
エルピージョは、できる限りの願いをかなえてやりました。
際限なくやってくる願いの山に対処するため、担当者を決めて働かせました。やがて、その担当者もアリ人間たちからロボットへと切り替えられ、どんどん無人化が進んでいきます。
その甲斐あって、ようやく一通りの願いをかなえ終えたところ。
「フ~、これでゆっくりできる」
「おつかれさま。これからは、2人で仲良く静かに暮らしていきましょうね♪」
自室でゆったりと紅茶を楽しむエルピージョとレーベ。
しばらくの間は、このような平和な時間が流れていきました。
*
それから、どれほどの時が流れたでしょうか?
数年か?十数年か?
人々は、お金のない世界で、全く働く必要もなく自由を謳歌しています。
ところが、それが逆によくなかったらしく、一通りの遊びをこなし尽くすと、やるコトがなくなって、ボ~ッとして暮らすようになってしまいました。
1日中、ボ~ッと宙を眺め、適当に食事をし、あとは寝て過ごすだけ。
「ああ~あ。人生って退屈だなぁ」
「ほんと。何をして過ごせばいいのかサッパリわからないや」
「何もかもがすぐに飽きてしまう。生きるって、こんなにツラいコトだったのか…」
こんな風につぶやく人たちが増えていきます。
ここに来て、ようやくエルピージョは神様の気持ちがわかってきました。
「そうか!そういうコトか!何もかもが瞬時にかなってしまい、お金もなく、働く必要もない。そんな世界は退屈過ぎる。だから、同じ種族同士争わせて戦争を起こそうとしたのか!」
そう気づいたエルピージョですが、時すでに遅し。
解決策などなくなっていました。
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




