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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~箱の中の世界~
716/1003

~第715夜~「箱の中の世界(その12)」

 神様の能力を得たアリ人間のエルピージョが最初に願ったのは「妻であるレーベを生き返らせてくれ!それも若い時の姿で!」でした。


 エルピージョの願いはすぐに聞きとげられます。

 初めて出会った頃まんまの姿で、赤アリ人間のレーベが現われました。


「あなた…誰ですか?それに、ここはどこ?」

 キョトンとした表情でたずねるレーベ。


「ああ、そうか。“若かった頃の姿で”と願ったから、記憶も当時のモノなのか。ならば…姿はそのままで、レーベの記憶を死の直前まで与えたまえ!」

 エルピージョはそう気づいて、次の願いをとなえます。


「エルピージョ!エルピージョなの!?それに、この姿は一体?」

 若く美しい赤アリ人間のレーベは、自分の姿を見て驚きます。

 なにしろ、彼女の記憶によれば、さっきまでの自分は巨大な女王アリだったのですから。それも、死の直前の。


 あわてふためくレーベに、エルピージョは順を追って説明していきます。


「…というわけで、どうやら僕は神様と同じ力を手に入れたみたいなんだ。どんな願いも思うがまま。ホラ、こんな風に!」

 そう言うと、エルピージョはレーベと初めて会った頃と同じくらいの年齢にまで戻りました。もちろん、現在の記憶は維持したまま、切断された左手も再生した姿で。


「ほんとだ!」と、驚くレーベ。


「それで、これからどうすればいいと思う?」


「どうすればって?」


「せっかく神様と同じ力を手に入れたんだ。この力を使って、何かをするべきじゃないかな?」

 エルピージョの質問に、しばし頭をひねって考えるレーベ。


「そうねぇ…やっぱり、理想の街を作るべきじゃないかしら?私たちが若い頃に願ったように。あ!今はもう若い時の姿に戻っちゃってるけど」


「理想の街か…そういうのもいいかもしれないな」

 そう答えると、さっそくエルピージョは作業を開始しました。


         *


 目の前に広がる広大な街。

 地面の下に作られた巨大な巣は全て特殊な金属製で、大きな地震にも耐えられる構造となっています。


 もちろん、この世界に“お金”などというモノは存在せず、衣食住は完全に保障され、必要なだけの物資やエネルギーが全アリ人類に与えられているのです。


「完成したわね。理想の街」


 レーベの言葉に静かにうなずくエルピージョ。


「ああ。これでようやく静かに暮らすことができる」


 理想の街作りを始めた当初は、超多忙な日々を過ごしていたエルピージョ。

 新しく仲間を増やすことから始め、人々の意見を聞き、インフラなど必要な物を整えていきました。

 もちろん、心の中で願えばなんだって瞬時にかなってしまうのですが、それでも願いの数が多過ぎて、目が回るほど忙しい日々を過ごしていたのでした。


「神様!食べる物を出してください!」


「神様!安全で頑丈な家を作って!」


「神様、神様!僕に素敵な恋人を!」


「神様、働かなくなってよい世界になったのはありがたいのですが、退屈過ぎでどうしようもありません。何か遊び道具をお願いします」

 …と、この調子。


 そのたびに、エルピージョは「僕は神様じゃないんだけどなぁ。みんなと同じだと考えてくれ」と言いながらも、全員の願いを逐一(ちくいち)かなえていきました。


「まあ、しょうがないわよ。あなたは神様に匹敵する力を手にしたんだから。みんなのためにがんばりましょう♪」と、その都度(つど)はげましてくれたレーベ。


 食糧が無限に生産できる工場を作ったり、服や靴も自分の好みの物をその場で出力してくれるマシーンを生み出したり。どこにいても誰とでも通信できる機器を全員に配ったり。

 エルピージョは、できる限りの願いをかなえてやりました。


 際限(さいげん)なくやってくる願いの山に対処するため、担当者を決めて働かせました。やがて、その担当者もアリ人間たちからロボットへと切り替えられ、どんどん無人化が進んでいきます。

 その甲斐あって、ようやく一通りの願いをかなえ終えたところ。


「フ~、これでゆっくりできる」


「おつかれさま。これからは、2人で仲良く静かに暮らしていきましょうね♪」


 自室でゆったりと紅茶を楽しむエルピージョとレーベ。

 しばらくの間は、このような平和な時間が流れていきました。


         *


 それから、どれほどの時が流れたでしょうか?

 数年か?十数年か?


 人々は、お金のない世界で、全く働く必要もなく自由を謳歌(おうか)しています。

 ところが、それが逆によくなかったらしく、一通りの遊びをこなし尽くすと、やるコトがなくなって、ボ~ッとして暮らすようになってしまいました。

 1日中、ボ~ッと宙を眺め、適当に食事をし、あとは寝て過ごすだけ。


「ああ~あ。人生って退屈だなぁ」


「ほんと。何をして過ごせばいいのかサッパリわからないや」


「何もかもがすぐに飽きてしまう。生きるって、こんなにツラいコトだったのか…」

 こんな風につぶやく人たちが増えていきます。

 ここに来て、ようやくエルピージョは神様の気持ちがわかってきました。


「そうか!そういうコトか!何もかもが瞬時にかなってしまい、お金もなく、働く必要もない。そんな世界は退屈過ぎる。だから、同じ種族同士争わせて戦争を起こそうとしたのか!」

 そう気づいたエルピージョですが、時すでに遅し。

 解決策などなくなっていました。


 さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。

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