~第713夜~「アリ人間たちの戦争(その6)」
神様は、アリ人間たちに新しい発明をもたらしました。
その名は“お金”
それまで、アリ人間たちは全員が公平に働いていました。
公平とは言っても、全員が同じ時間だけ働いていたわけではありません。朝から晩までひたすら働き続けているアリがいたかと思えば、ず~っとサボっているアリもいたのです。
そうして、働き過ぎで倒れる者がいると、これまでサボっていたアリが急に一生懸命働き始めるのでした。
そうやって、社会全体でバランスを取っていたのです。
ところが、お金の登場で社会は一変します。
お金は「全員を公平に働かせ、公平に休みが取れるようにしてくれる」ハズでした…
けれども、実際にはそうはなりませんでした。なぜなら、貧富の差が生まれてしまったからです。
「おかしいなぁ…どうして、アイツはあんなにたくさんの金を持っているんだ?」
「こんなに一生懸命に働いているのに、どうして僕は貧乏なままなんだろう?」
「『努力すれば必ず報われる』って教わったのに、いつまで経っても苦労してばっかり。何かがおかしいぞ?」
こんな風に考えるアリたちが続出します。
世の中には、お金儲けがうまい人とヘタな人がいるのです。
お金儲けがうまい人は、小さな力で大金を稼ぎます。逆にお金儲けがヘタな人は、物凄くがんばって働くのに全然貯金が増えません。
誰もが与えられたエネルギー自体は似たり寄ったりなのに、結果は全然違ってきてしまうのでした。
社会にお金が導入されると、新しい仕組みや仕事が増えていきます。
たとえば、銀行、金貸し、投資家といった職業が誕生しました。税金や株式といった概念も生まれました。
「おっかしいな~?なんだか、以前よりも暮らしづらくなってしまったぞ?」と、つぶやく人がいます。
逆に「世の中、なんて楽しいんだ!ほんのちょっとした努力でどんどん金が稼げて楽になっていく!生きるって最高だ!」なんて言っている人もいます。
お金は余計なモノも生み出しました。“娯楽”です。
それまで、働いて食事をして寝るだけだったアリ人間たち。ゆとりができたことで、遊ぶということを覚えます。
巣の外では遊園地が建設され、休日ともなれば家族連れのアリ人間たちでごった返します。
巣の中でも遊べるようにゲームが発明されました。
最初は木や紙を使った原始的なゲームに過ぎませんでした。それが、やがて電気を使った電子ゲームに変わっていきます。
電気はゲームだけでなく、様々な便利な道具も生み出してくれました。
テレビ・冷蔵庫・電子レンジ・洗濯機などなど。音楽を聞くこともできるようにもなりましたし、映画やドラマの撮影も始まりました。
「ウゥ…またスカンピンになっちまったよ…」
オヤオヤ。あそこを歩いているのは、ギャンブルで全財産をスッてしまったアリ人間ではありませんか。
そう!貨幣経済社会は、お金同士を戦わせ、大儲けしたり大損したりする遊びまで生み出してしまったのです。
お金がなくなったアリ人間は、どうなるかって?
犯罪に走るようになってしまいます。人を襲ってお金を奪い、時には命まで奪い、最低の人生に身を落としてしまうのです。
社会の犯罪率が上がり、必然的に警察の役割が増えました。
民間の警備会社に仕事を依頼する人も現われます。強盗に襲われた時のために、保険会社が立ち上げられます。
そう!ここでも、またお金!
お金!お金!お金!
社会全体がお金という名の歯車で回っています。
「どうして、こんなコトになってしまったのだろうか…」と、黒アリのエルピージョはつぶやきます。
初めてこの土地にやって来た時よりも、随分と年を取った姿で。
「ほんとに。理想郷を求めていたはずだったのにね。私たち…」と、巨大化した体でレーベも同意します。
「もしかして、神様が間違っていたんじゃないだろうか?」
エルピージョが言うと、レーベは全力で反論しました。
「何を言ってるの!あなた!神様はずっと私たちを助けてくれたじゃないの!」
「それはそうなんだが…なんだかおかしな社会になってしまったのは、何もかもを神様に頼り過ぎたせいじゃないだろうか?何もかもを受け入れ過ぎたせいじゃないだろうか?特にお金に関しては…」
そう言われて、レーベも黙ってしまいました。
彼女自身、思う所があったからです。
(確かにね。昔は、もっと平和だった。確かに労働は大変だったけど、それでも今よりはみんな公平だった。それが、お金が入ってきたばかりにみんなおかしくなってしまった。狂ってしまった…)
「こんなギスギスした社会になったのは、やはり神様のせいなんじゃないか?いや、もしかして神様じゃなくて悪魔だったんじゃ?」と、エルピージョ。
「やめて!これ以上、神様を愚弄するのは!食糧だって、ロイヤルゼリーだって、他の物資だって、いろいろな便利な発明だって、みんなみんな神様が与えてくれたものじゃないの!」
「そうだ。ロイヤルゼリーだって、神様が与えてくれたモノだった。おかげで、君はそんな体になってしまった。身動きひとつできず、ただ卵を産み続けるだけの体に…」
「だから、やめてって!私は、私自身のこの人生に満足してるんだから!」
女王アリのレーベは、そう叫びました。
この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




