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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
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~第5夜~「死にいたる病コロコローリ(その2)」「転生者だらけの世界」

 ある者は神に祈り、ある者は悪魔にすがりました。

 けれども、神も悪魔も助けてはくれません。コロコローリは容赦なく人々の命を奪っていきます。


 誰にもどうしようもないまま、強攻策に出る国が現れます。コロコローリに感染した患者を隔離し殺してしまうのです。


「アレは悪魔の病じゃ!元から絶つしかない!呪われた者は(みな)、殺してしまえ!」


 そう言っていた人自身が感染し、自らの言葉通り殺されてしまいました。


 やがて、人間だけでなく他の動物も感染することがわかってきます。

 この時代、人類は魔王軍と戦争をしていましたが、魔王軍も謎の病に手の施しようがなく、一致団結してコロコローリと戦うことに。

 皮肉な話ではあるのですが、共通の敵を持って初めて和解が成立したわけです。


 時と共に、魔法とは別に医学が進んでいきます。それも、そんなに高度なモノではありません。

 たとえば、「手を洗う」「マスクをする」といった感じで、現代人ならばあたりまえの行為でコロコローリの侵攻を食い止められることがわかってきたのです。


 セッケンが発明され、爆発的に売れました。布きれで簡易マスクを作成し、これまた爆発的に流行(はや)りました。

 それまでは、そんな単純な防御方法すらなかったのです。


 おかげで、コロコローリに対抗するだけでなく、他の感染症も防げるようになっていきます。この時代、お産で母子が亡くなることが多かったのですが、セッケンとマスクを使うようになって、出産の際に母親が死亡する確率も格段に下がりました。


 4年以上の時を経て「コロコローリ」は徐々に沈静化していきます。

 大勢の犠牲者を出した代わりに、医学は格段に進歩し、防疫(ぼうえき)魔法の開発も進みました。


 ところが、ウイルスの脅威が去ると同時に、人類と魔王軍は戦い始め、再び戦乱の世へ。

 人というのは常に何かと戦い続けていないと気が済まない生き物のようです。

 それでも、歴史上でも珍しく人間と魔族が共に手を取り合えた時代が存在したことだけは、確実な出来事なのでした。


         *


「転生者だらけの世界」


 続けて、次のお話を語っていきましょう。


 ある時、神様が1人の人間を異世界へと転生させました。

 続けて、別の人間も転生させました。

 さらに、3人、4人…と同じ世界へと転生させていきます。


 人数が少ない内はよかったんです。

 転生者はみんな冒険者となり、ゴブリンだとかスライムだとかを狩りながら和気あいあいと暮らせていましたからね。


 ところが、段々と人数が増えてきます。

 100人になり、1000人になり、1万人を超えた辺りでみんな「おかしいぞ?」と気づき始めました。

 あまりにも冒険者の数が増え過ぎて、競争が起きてきたんです。冒険者同士の間で優劣ができ、モンスターの数も足りなくなってきました。


 そこで、神様は「無限にモンスターの湧く泉」を作り出し、需要を満たしました。

 けれども、冒険者たちはどんどんレベルが上がっていきます。そこで、今度はより強力なモンスターを生み出して、世界を混沌の渦へと巻き込みます。


 何度も何度も同じコトを繰り返しました。

 冒険者はレベルが上がり、モンスターはより強力になっていく。その上、新規の転生者が次から次へとやって来るのです。


 困ったのは、元々この世界に住んでいた住人たちです。

 せっかく平和に暮らしていたのに、よそ者がやって来て「冒険者」と称してはまともに仕事もせずにモンスター狩りに興じる日々。

 しかも、世界はどんどん危険になっていきます。


 世の中は需要と供給で成り立っているのです。

 狩りに行く人ばかりでは成り立ちません。食料も足りなくなるし、宿を用意したり、家を建てたりする人も必要です。


 そうこうしている内に、モンスターを狩る商売は割に合わなくなってきて、農家だとか商人だとかの方が儲かるようになってきます。


 やがて、転生者の中にも冒険者をあきらめる人たちが現れ始めます。


「オレ、もう飽きちゃったよ」


「だって、どんなにがんばっても、もっとレベルの高い奴がいるんだもの」


「どんなにモンスターを狩ったってキリがないよな。もう、やめだ!やめ!」などと、口々に叫んで、地味な商売へと転職していきます。

 これはこれで結構幸せな人生設計となりました。


 それでも、神様は異世界転生者を増やし続けます。

 10万人、100万人、1000万人。ついには、異世界転生者の数が1億人を超えてしまいました。


 こうなってくると、地道に働いたり、勇者や戦士や魔法使いとしてモンスターを狩るのを望まない人たちも登場します。

 この手のタイプは、逆にモンスターの味方になったり、モンスターを使役したりして、人間の敵となっていきます。

 そうして、自らを「魔王」と名乗るようになりました。


 世界中に数多くの魔王が誕生します。同時に数多くの勇者も存在しています。

 勇者同士が手を組んで魔王を倒しに行ったり、魔王同士で争って優劣を決めたり、魔王の中でも結託して新しい国を作る者まで現れ始めました。


 世界はどんどん混沌さを増していきます。

 人々はお互いに争い憎しみ合い、気の休まる暇がありません。それでも、みんな目の前の戦いに没頭し、常に忙しくしています。


 その様子を天界から見ていた神様は、ホクホク顔です。


「やれやれ、ようやく在庫一掃処分ができたか」


 そう!この世界に転生されてきたのは、みんな、別の世界で「厄介者」とか「役立たず」とか「社会のクズ」とか呼ばれていた人たちだったのです。

 生きるコトをあきらめ、自ら命を絶った魂は行き場をなくし、神様によってこの世界へと運ばれてきたのでした。


 神様によって、この世界は「地獄」と名づけられました。


         *


「なるほど。それが地獄の始まりだったのね」と、シェヘラザード。


「さようでございます。地獄については、まだまだおもしろいお話もあるのですが、それはまた別の機会に」


 空が白んできたので、そう言って僕は話を打ち切った。

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