~第3夜~(「自分勝手な勇者(その2)」「植物の育て手(プラントグロワー)と禁樹」)
「確か、昨日の夜は『自分勝手な勇者』の話だったわね。男の聞き手なら喜ぶようなお話かもしれないけれど、女の私からすると腹が立つばかりね」と、シェヘラザード。
「そうでしょうとも。そうでしょうとも」と、僕は同意する。
「で、続きはどうなったの」と催促され、僕は「それをこれから語ろうとしていたところですよ。では…」と答える。
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目についた女性を片っ端から食い物にしていた勇者ですが、魔王の出現で、本気で冒険の旅に出なければならなくなります。
これまで悠々自適に過ごしていた勇者からするとめんどくさい話ではありましたが仕方がありません。
「まあ、いいか。こちらには無敵のチート能力がある。この能力を使って、超優秀な女戦士やら女魔道士やらを仲間にすれば、魔王なんてちょちょいのちょ~いだろう」と、いい気になっていた勇者ですが、そうは問屋がおろしません。
魔王の軍団を固めるのは、かつて仲間だった者たちばかり。
勇者に捨てられた恨みから、勇者の敵となったのでした。むしろ、この勇者の復讐する為に魔王軍を結成したレベル!
魔王にいたっては、勇者の最初の元カノでした!
恨みのパワーとは恐るべきもので、「かつて自分を捨てた者に復讐してやる!」とばかりに必死に修行を積み、レベルアップした戦士やら魔法使いやら僧侶やら魔物使いやらが束になってかかってくるのです。
おまけに街の人たちまで結託して罠を張ってきます。
「よくもうちの娘をかどわかしてくれたな!」とか「オレの妻にまで手を出しやがって、絶対に許さん!」などと口々に叫んで、攻撃してきます。
さすがの勇者も、これには参りました。宿屋の主人も敵に回り、まともに休息を取ることすらままなりません。武器屋のオヤジも、防具屋も道具屋も、みんなみんな怒り心頭で、薬草1つ売ってくれないのです。
ついに、勇者はとっつかまって、縄でグルグル巻きにされ、壺の中へと封印されてしまいました。
勇者の封印された壺はガンジス川のごとき大きな川の底へと沈められ、残された人々はみんな平和に暮らしましたとさ。
めでたしめでたし?
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「これじゃあ、どっちが魔王でどっちが勇者かわからないわね」とシェヘラザード。
「さすが!お目が高い!『世の中、何が正しくて何が間違っているのか、名目上ではよくわからない』というのが、このお話の教訓でもあるのです。実は、このお話には続きがありまして…」と僕。
「じゃあ、次はその物語ね」
「いえいえ、続きはまたのお楽しみに♪という具合でありまして」
「引っ張るわね~」
「引っ張りますよ。それこそが語り手の腕の見せ所ですから。というわけで、次は別のお話を」
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「植物の育て手と禁樹」
むかしむかし、あるところに「植物を育てる能力者」というのがおりました。とは言っても、植木屋ではありません。手で触れるだけで、いかなる植物でも成長を促進させることができたのです。
「月下美人」であろうが「ウツボカズラ」であろうが「魔界の植物」であろうが、彼女に育てられない植物はありません。
そう!「彼女」は女性でありました。
「猛獣使い」ならぬ「植物の育て手」といったところでしょうか?
プラントグロワーである女性のもとには、引っ切りなしに依頼が舞い込んできます。
貴族から王様から、時には闇の住人まで。育てて欲しい木や花の持ち主はいくらでもいました。報酬の額も上々でしたので、手元にはかなりの額のお金が残りました。
もちろん、冒険者が持ち帰る未知のキノコや毒草などというものもありましたので、育成には細心の注意を払う必要があります。
そんなある日、プラントグロワーは「禁樹」のウワサを耳にします。
「この世界には、決して育ててはならぬ木がある」のだと。
そう聞いては黙ってはいられません。
これまでも世にも珍しい花や木の数々をその手で育て上げてきた娘です。「そんなにも珍しいらしい木があるのなら、是非とも私の手で育ててみたい!」と、ウズウズしてきました。
そうして、娘は旅に出ます。
何年も何年も旅を続け、ついに世界の果てで目的の木に出会いました。
その名は「世界樹」
世界樹に魅せられたプラントグロワーの娘は手塩にかけて育て始めます。
持てるエネルギーの全てを注ぎ、世界樹に与えました。それでも、全然足りません。
やがて、娘は周りの生き物を刈ってきては世界樹に与えるようになっていきます。それでも全然足りません。
ついに、娘は人間の魂さえも世界樹に与えるようになります。
何十人、何百人、何千人の命を犠牲にしたでしょうか?
グングンと世界樹は成長していき、太く長い根を大地に張り、自然とエネルギーを吸い取っていきます。
こうなっては、誰にも止められません。自動で成長を続ける世界樹は、娘の命も周辺住民の命も全て吸い取り、大陸全土、星のエネルギーそのものまで吸い取り、最後には星の命は尽きてしまいました。
この宇宙には、滅んでしまった世界がいくつもあると聞きますが、このお話に登場した星もその1つにございます。
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「えらくスケールの大きなお話ね」とシェヘラザード。
「でしょ?」と自慢げに語る僕。
「気に入ったわ。もっとスケールの大きなお話はないの?」
「ありますとも!ありますとも!でも、ご覧くださいシェヘラザード様。そのそろ太陽が昇ってくる時間でございます。次の物語は、また明日の晩に」