~第315夜~「退屈な星のサルサラ(その3)」
第297夜で、地球からクロガネたちが別の世界へと移住して50年。摂理光輪教のメンバーを率いて、檜扇アヤメがさらに別の世界へと旅立ってから40年以上の時が経過していました。
さらに第305夜でテーラが3人のお供を連れて村を出た日から数えても、20年以上が経っています。
クロガネは、最初に訪れた世界を“究極の自由世界”にすべく種をまくと、その後もいくつもの世界へと通じる道を作り続けました。その中心にあったのは、ナオミたちの住む地球の夕空市でした。
今や、夕空市は異世界間をつなぐ貿易の中継地点として、巨大都市へと発展を遂げています。
クロガネが最初に訪れた世界は、テーラの出身地でもあり、カエルの王様となったケロ吉が住んでいた星でもあります。
アヤメ率いる摂理光輪教のメンバーが布教活動を続け、“平和と安定と法の世界”へと変えた星は、サルサラの出身地。もっとも、サルサラにとっては“退屈極まりない星”に思えていたようですが…
*
テーラ商団のトラックに潜り込んだサルサラは、団員たちの指導のもと、メキメキと実力をつけていきました。
元々物覚えのよい性格だった上、退屈な星から逃げ出して元気いっぱいのサルサラ。見るコト聞くコト何もかもが新鮮で、まるでスポンジが水を吸収するかのごとく成長していきます。
たとえば、「荷下ろし」「料理」「掃除の仕方」などなど。教えられたコトは瞬く間に覚えてしまい、すぐに自分の能力にしてしまいます。
特に飛び抜けて優秀だったのは「情報管理」に関する仕事。どこに何が保管してあって、どのように整理すれば一番効率がよいのか、瞬時に判断できるのでした。
逆に苦手だったのは「敬語を使ったあいさつ」や「目上の人に対する態度」といった人間関係におけるスキル。コミュニケーション能力自体は抜群に高いのですが、ちょっとでも能力がない者に対しては、途端に不遜な態度を取ってしまうのが、サルサラの悪いところでした。
この時代、すでに機械文明はかなりのレベルにまで発展しており、商品のデータ管理はコンピューター上で行われています。
交易品には全て“タブ”がつけられていて、小型のスキャナーで読み取るだけで、在庫管理は終了してしまいます。タブはわずか数ミリ程度のものなので、邪魔にもならず生産も安価に行えるのでした。
ピッ、ピッ、ピッ…と、手持ちのスキャナーで倉庫の商品を次から次へと読み取っていくサルサラ。この仕事は、商団の誰よりも早く行えるようになっていました。
「がんばってるわね」
テーラが様子を見に来て言います。
「ハイ!アタシ、この仕事大好き!」
口は動かしながらも作業は続けるサルサラ。
「ヘェ~!あなた、なかなかやるじゃない。たいしたものね!」と、テーラが褒めてくれました。
「アタシ、何でもできちゃうタイプだから!」
「けど、あまり調子に乗らないようにね。人間には向き不向きがあるんだから。あなたの場合、自分の仕事はできるけど、仕事のできない人への風当たりが強過ぎるから。そういうとこ注意しないと、嫌われちゃうわよ」
「自分でもわかってはいるんですけど…トロトロしてる人とか、物覚えの悪い人を見るとつい…」
そんなサルサラに、テーラは昔の話をしてくれました。
「もう遠い遠い昔の話よ。私がどうしてこんな活動を始めたか。一番最初は、障害者施設を訪れたときのコトだったわ…」
「どんなコトがあったんですか?」
「私のいた世界はね。自由と能力を重んじるとこだったの。きっと、あなたにはピッタリの世界ね。テキパキと何でも簡単にこなしてしまうような人は、うまく渡っていけたでしょうから」
「へ~、理想的な星だったんですね」
「それが、そうでもないの。能力を重んじるというコトは、何もかもが“自己責任”って意味でもある。身体の不自由な人や、年を取った人。それに、仕事のできない人は、みんなみんな虐げられてしまう。そんな世界よ」
「フゥ~ン。けど、能力に応じてお金も稼げるんでしょ?だったら、若くて健康な時にいっぱいお金を稼いで、老後に備えておけばいいんじゃないですか?」
「ま、そうね。でも、突然の事故にあったり病気になったらどうする?」
「普段から保険をかけておくとか?」
「そうやってちゃんと準備してる人もいたわ。だけど、みんながそういうわけじゃなかった。それに、保険金だけじゃ足りたいことだってあるでしょ?そんな時はどうする?」
「そんな時は…死ぬしかないかな?」
サルサラの答えにフッと笑ってしまうテーラ。
「そうね。そのくらい覚悟ができてる人ならいいかも。でも、その覚悟だって、いざとなったらどうかしらね?『やっぱり死にたくない!』って思うんじゃない?」
「アタシは、そんなコトないですよ。それに、ケガだって病気だって、普段から気をつけていれば防げるはず!」
「かもね。けど、防げない時だってある。自分のためだけじゃないのよ。他の人たちのコトも考えて、私は『そんな世界間違ってる!」って思ったの。だから、こうやって商団を始め、稼いだお金を恵まれない人たちに使うコトに決めたの」
サルサラは目をまん丸にして答えます。
「へ~!テーラお姉さんって、偉い人だったんですね!」
「偉いかどうかはわかんないけどね。それが、私の選んだ選択肢」
続けて、昔の仲間の話をするテーラ。
…と、今夜もお時間を過ぎてしまったようですね。それでは、この続きは、また明日の晩に語るといたしましょう。




