~第313夜~「予言者と鬼の娘テーラ(その10)」「退屈な星のサルサラ」
まるで1個の生命体のように成長と衰退を繰り返しながら、テーラ商団は世界を旅し、交易を続けます。
そして、ついに別の世界への道をくぐり、交易の範囲を異世界間へと広げました。
この時点で数万人規模にまでふくれ上がっていたテーラ商団は、いきなり全員を別世界に送り込むことができず、先遣隊として十数人のメンバーが選ばれます。
世界間をつなぐトンネルをくぐり抜けた先にあったのは、夕空市でした。夕空市からは、さらにいくつもの異世界への道が通じています。
この頃からテーラ商団は、いくつもの組織へと分裂を始めます。
まずは「元いた世界にとどまり続けた人々」
移動し続ける人生に疲れた者たちは、それぞれ安住の地を見つけ、新たな街を作ったり、元々存在していた街に「テーラ商団の支部」を作って、商売を始めます。
それから「移動しながらの交易は続けるものの、異世界へは行かなかった人々」
彼らは相変わらず、以前と同じように1つの世界の中を旅しながら、商品を売り歩いて暮しました。
第3の組織として「夕空市の存在する地球で暮し始めた人々」
これは、元いた世界で行っていたのと同じやり方を地球で広めていった者たちです。地球の各国を旅しながら、別世界から輸入してきた商品を売りさばき、逆に地球で購入した商品を別世界へと輸出します。
最後に「いくつもの世界を渡り歩くようになってしまった人々」
リーダーであるテーラは、この組織に属していました。生来持ち合わせていた好奇心からか、まるでジプシーのごとく様々な世界を旅しながら、その一生を終わらせたということです。
そして、新時代…
「退屈な星のサルサラ」
かつて、夕空市からクロガネの力で通じた道は、いくつもの世界への移住者を生み出しました。
その内の1つは「摂理光輪教」の移住先。次の物語は、この世界を舞台に始まります。
初めて地球から人がやって来て40年の時が経過しました。
40年の時をかけ、この世界は「平和と安定と秩序を中心とした社会システム」へと変革されていきます。
それは、1つの理想郷を誕生させましたが、同時に“退屈さ”と“停滞”という2つのリスクを背負うことになりました。簡単に言えば、平和過ぎて人々は新しいモノを生み出す気力を失ってしまったのです。
新しい発明や発見はされなくなり、映画やドラマ、マンガにゲームといった文化も、似たり寄ったりの作品が量産されるだけ。どこにも目新しさがなくなってしまいました。
他の世界との交流は禁止されていませんでしたので、新しいモノはいつも別の世界から輸入されてきます。
そのための一番大きな役割を果たしていたのが“テーラ商団”
ここにひとりの少女がいます。少女の名は“サルサラ”
サルサラは、常に退屈していました。そして、いつもこんな風にため息をついて暮しているのです。
「ああ~あ。アタシ、絶対に生まれてくる世界を間違えたわ。だって、小さな子供の頃からずっと退屈で退屈で死んでしまいそうだったもの。こんな星じゃ、アタシの本当の能力は発揮できない…」
だから、サルサラは「いつか、誰かが自分を迎えに来てくれるはず。そうして、この退屈な世界から連れ出してくれるはずなんだわ」と信じるようになっていました。むしろ、それだけが彼女にとって、たった1つの生きる希望であったのです。
そして、その日はやって来ます。
サルサラ14歳の年。いつものようにテーラ商団の一行が、この世界を訪れました。サルサラは、荷の積み下ろしを見学しようと、貿易港を訪れました。
何台もの巨大なトラックが異世界からやって来て止まっています。開かれるトラックの扉。あわただしく働く人々。次から次へと商品が下ろされていき、代わりにこの世界の特産物が乗せられていきます。
荷下ろしを指揮しているのはひとりの女性。そこに立っていたのは、リーダーのテーラその人。年齢はすでに40歳を越えています。
「アラ、お嬢ちゃん。そんなに荷物の積み下ろしが珍しい?」
熱心に見つめる少女に声をかけるテーラ。
コクンと小さくうなずいてから、サルサラはたずねました。
「お姉さん、1つ質問してもいい?」
「アラ、お姉さんだって。私は、とっくの昔におばさんよ。それで、質問は何?」
「どうしたら仲間に加われますか?」
「仲間?私たちの?」
「そうです。私、これ以上この星にいたくないの」
「アララ、どうして?」
「だって、退屈なんですもの。お姉さんなら、アタシをここから連れ出してくれるでしょう?」
「ウ~ン…どうかしらねぇ?見たところ、まだ未成年みたいだし。あなたのお父さんやお母さんが許してくれないでしょ?」
「それでも、アタシ一緒に行きたいんです!」
「困ったわね。別に連れて行ってあげてもいいけど、もっと大きくなってからね♪それまで、シッカリ学校で勉強なさい」
それがテーラの返答でした。サルサラは、その言葉を聞いてガッカリします。
「なんだ、お姉さんもみんなと同じようなコトを言うのね。退屈な人間だわ。アタシ、退屈は大っ嫌い!」
そう言って少女は駆け出すと、やがて小さな点となり見えなくなってしまいました。
「やれやれ、嫌われちゃったわね。けど、私にも昔、同じような時期があったわ。もうちょっと大きくなってからだったかもしれないけれど…」
そうつぶやくと、テーラもまた自分の仕事に戻っていきました。
さて、今夜もお時間となったようです。
それでは、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




