~第312夜~「予言者と鬼の娘テーラ(その9)」
障害者施設を訪れた後も迷い続けるテーラ。他国で見捨てられた弱者たちが、どんどんカエル国に流入してきている現実。
「それでも、この国はうまくいっている方だ」と言うテーラに対して、新聞記者のチャルラタンが反論します。
「けど、人は増えても、弱者ばかりでは国は発展していかない。むしろ、足手まといだとも言える。このままだと、この国の資金や資源は底をついてしまうだろう。そうなれば、どんな理想的な国家も滅んでしまう。結果的には、弱者だけじゃなく、全員が救われなくなる」
「身体が不自由だからなんだっていうのよ?だったら、特殊な技能を身につければいいじゃないの!お年寄りだって同じよ。若者にはない知識や経験を生かして仕事をすればいい。そうやってお金を稼げばいい!」
感情的になるテーラに、チャルラタンはさらに言葉を継ぎます。
「確かに。世の中には、寝たきりの芸人や、車イスの物理学者なんてのもいる。けど、そんなのは一握りの人間だけなんだ。ほとんどは、フツーの人間に過ぎない。能力的には、他の人たちと変わらず、ただ心や体に障害があるというだけ。むしろ、能力的には劣っているとさえ言える」
「そんな…」
「老人にしても同じだ。若者より経験豊富で有り余るほどの知識を持ち合わせている偉人や経営者なんてのもいるにはいる。けれども、ほとんどは最新の技術や機械についていけない者たちばかり。そのくせ、偉そうに声ばかりが大きい。“老害化”してしまっているんだよ」
「じゃあ、能力のない人や肉体的に劣っている人たちは、切り捨てられても仕方がないというの?」
「それが、この世界の選んだ選択なんだよ。人々がより自由になり、能力主義になっていった結果、金持ちはより金持ちに。貧乏人はより貧乏になっていってしまった。それが“正しい”とは言わない。けど、そういう世界になってしまったコト自体は事実なんだ」
「そんなの間違ってる!だったら、私は変えてみせる!こんな世界を!」
そうテーラは決意を示しました。
フム…と一息ついてから、チャルラタンも同意します。
「僕だって、おかしいと思うよ、こんな世界は。だけど、僕にはどうしようもない。ペンの力を使って、世間の人々に現状を伝えるくらいしか術はない。それでも、こんな僕の力でも役に立つというなら、ぜひ協力させて欲しい」
「アタシも!」
「オレも!」
「微力ながらワシもお手伝いさせてもらおうかな。テーラ様の理想に」
と、ミーシャ、モカメル、サフルの3人も協力を申し出ました。
こうして、“弱者切り捨て型の世界”に変革をもたらそうと、5人は立ち上がったのでした。
*
一方、その頃。カエル王ことケロ吉は、自室で大臣から報告を受けていました。
「それで。難民たちは、どのくらいの数になったケロ?」
「ハイ。今月だけで、およそ5万人ほどです」
「そんなにかケロ…今年だけで、すでに30万人を越えているというのに。このままだと、我が国の財政は破綻だケロ」
「さすがに、そろそろ何か手を打たないと。それも、抜本的な手を。国が弱体化すれば、いずれ他国から侵略されてしまう日も来るかもしれません」
タイムリミットは、刻一刻と迫りつつありました。
*
テーラたち5人は、それからも旅を続けます。
「自分たちに何ができるのか?」もわからぬまま、世界各地を転々とし続けました。
その過程で、理想に賛同した者たちが、次々と仲間に加わっていきます。ありとあらゆる種族・年齢・性別・職業の者たちを巻き込みながら、肥大化していく旅の一行。
もちろん、その中には身体の不自由な人や精神に異常をきたした人なども含まれています。
それは、かつて別の地球でブッダやキリストが行っていたのに近い行為だったかもしれません。理想を追い求め旅し、先々で共感者を増やし、ぞくぞくと旅の仲間を増やしていったように。
いつしか、彼女たちは“テーラ商団”と呼ばれるようになっていました。
それは、まるで無数の虫が集まって1個の生命体を形成しているかのごとく。あるいは、街がまるごと1つ移動しているようでもありました。
様々な職業の集合体であるテーラ商団は、それだけで全ての機能を有しています。たとえば、商人が生地を購入し、仕立屋が服を作る。鍛冶屋が武器や防具を精製し、それらを兵士が装備し人々を守る。行く先々で、農作物や特産品を購入し、別の土地で交換したり売りさばくといった具合に。
売るは物だけではありません。“知識”や“経験”“物語”といった目に見えない情報も重要な商品の1つ。
移動する街は、それ自体が交易所の役割を果たしながら、世界中を旅し続けます。
そうやって儲けたお金は、カエル国へと送られて、貧しい人や障害のある人たちのために使われました。
世界の隅々まで旅し尽くしたテーラたちは、ついに別の世界へと手を伸ばし始めます。
この続きは、また明日の夜に…




