~第311夜~「予言者と鬼の娘テーラ(その8)」
カエル王国へとやって来たテーラたち5人。
王様に国を自由に見て回る権利を与えられた一行は、ある建物の前で立ち止まります。
そこは障害者施設でした。
テーラたちが施設をのぞき見していると、窓から職員さんが顔を出してきて言いました。
「ご見学の方ですか?どうぞ、どうぞ、ご遠慮なさらずに」
そこで、5人は全く遠慮せずズカズカと建物の中へと入っていきます。
「アレは、何をやってるんですか?」と、首を傾げてたずねる新聞記者のチャルラタンに、障害者施設の職員さんが説明します。
「あそこでやっているのは、自由自在体操といって、体を自由に動かすための体操なんです」
「なんのためにそんなコトをやっているんですか?」と、今度はミーシャがたずねました。
「見てください。みんな、体が不自由な人たちばかりでしょう?」
職員さんに言われて部屋の中を眺めると、みんな体のどこかが欠損していたり、右手や左足や首が自由に動かせない人たちばかり。
「この人たちは一体…」と、テーラ。
「この方たちは、生まれながらに体のどこかが動かせなかったり、戦争に行って手足を失ってしまった人たちなんです」
「ここに集めて一緒に暮している?」と、モカメルも質問します。
「ええ、そうなんです。それでも、この国はマシな方なんですよ。ある程度、国から援助金も出てますからね。他の国は酷いものです…」
「どんな風にじゃ?」と、サフル。
「いつからか、この世界は“自由”を重んじるようになりました。それ自体は悪いコトではなかったのですが、その結果として、多くの差別が生まれてしまったのです。全ては自己責任。自分でお金を稼げない人は死ぬしかない。そのような世の中…」
「そんな…酷いッ!」とミーシャが叫びました。
他の4人も神妙な面持ちで床を見つめています。
その間も部屋の中では、施設の入居者たちが、不自由な体をクネクネと懸命に動かしながら“自由自在体操”を踊っています。
しばらくの沈黙の後、チャルラタンが再び口を開きました。
「僕も新聞記者として、この手の記事はよく書いているのですが…どうしたってマスコミの力にも限界がありますから。それに、自由を求めたのはこの世界に人々でもあるんです。何ごとにもメリットがあればデメリットもある。これが“自由の代償”というヤツなのでしょう」
「それにしたって酷いじゃないの!なんとかならないの!」と声を荒げるテーラ。
「そんなコト僕に言われたって…それに、お金を使うには、どこかでお金を稼いでこなければならない。収入のない人から脱落していくというのは、ある意味で自然の摂理なんだ」
「じゃあ、体の不自由な人たちは死んじゃってもいいってコト!?」
食い下がってくるテーラにチャルラタンも困った顔になります。
「そうは言ってない。そうは言ってないけど、この人たちを養うために、どこかから予算を取ってこないとならないコトだけは事実なんだ」
「“働かざる者食うべからず”という言葉もあるからな。まともに働いてこなかったオレが言うのもなんだが…」と、モカメルも言います。
「やっぱり死ねってコトじゃないの!」
「いや~、そういうわけじゃないんだが…」と言葉をにごすモカメル。
「ワシはわかるような気がするな。できることなら、ワシのような老人も救って欲しい。じゃが、世の中には“優先順位”というモノがある。生き残るとするなら、若いもんや健康なもんからじゃろうて。その上で、ゆとりがあれば全員をということになる。飢饉や災害が起れば、真っ先に切り捨てられるのはワシらのような弱者よのう」
サフルの言葉に涙目になるテーラ。
再び一同の間に沈黙が訪れます。
「なんだかしんみりしちゃいましたね。けど、さっきも言ったようにこの国は、まだマシな方なんです。カエルの王様が優秀なおかげでしょうね。自由を重んじながら、最低限のレベルで弱者も救ってくださっている。私は、そんな王様に感謝してるんですよ」
障害者施設の職員さんの言葉に気を取り戻すテーラたち5人。
ところが、そんなカエル国にも、大きな問題が持ち上がっていました。
先ほどの職員さんのお話の通り“この国は、まだマシ”な方だったんです。そして、国の概念は崩れつつあり、国境を簡単に越えられてします。となれば、どうなるか?
そう!他国の弱者たちが一斉にカエル国を目指してやって来るようになってしまったのです。
他の国では“能力ある者はますます栄え、弱き者は切り捨てられていく”という方針。なので、切り捨てられた人たちは助けを求めてカエル国を頼る。結果、多くの難民たちがカエル国にあふれ返るようになっていました。
「このコトだったのね。カエル王の言っていた『この国にもいろいろと問題がある』という言葉の意味」
テーラの言葉に新聞記者のチャルラタンが応えます。
「これもまた自然の摂理さ。水が高き所から低き所へ流れるように、他の国で邪険に扱われた者たちがカエル国へとやって来る。理想的な国家体制を敷いているからこそ、頼ろうとする者たちが集まってくる」
「でも、それって悪いコトなの?多くの人たちが頼ってくるってことは、この国だってどんどん発展してくってコトでしょう?」
テーラの質問に対して、さらにチャルラタンが返します。
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




