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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~邪神、勇者、時々人~
301/1003

~第300夜~「邪神、勇者、時々人(その90)」

 それから、創造神は新たにいくつもの世界を作り出しました。その多くは極端な社会システムを持ち合わせており、大勢のゆがんだ人間たちを生み出します。

 それらの世界が一定の文明レベルまで成長すると、他の世界への道を作り、新たな交流を始めさせました。かつて、クロガネや檜扇(ひおうぎ)アヤメが移住していった世界にも道が通じ、数多くの物語をつむぎ出します。

 さながら、その様子は巨大な花畑のようでした。1つの世界が1つの花であり、無限に広がる宇宙にハチやチョウの役割を持った者たちが種や花粉を運び、新たな生命を生み出すのです。

 創造神は、千変万化に変わりゆく万華鏡(まんげきょう)をのぞくように、その様子を眺めながら、いつまでもいつまでも楽しみ続けるのでした。


         *


「さて、100夜に渡る長きお話にも、こうして一区切りついたわけです。1つの物語は終わりを告げましたが、広がった世界は、無数の新たな物語を生み出してゆきました」と、天使である僕は言った。

「フゥ…えらく長い物語だったわね。ナオミが住んでいた世界から移住していった人たちはどうなったの?」と、シェヘラザード。

「もちろん、ここで終わりではありません。今回語りきれなかったお話や、この続きもいずれ語られる時が来るでしょう」


 しばらくの間があってからシェヘラザードは再び口を開いた。

「世界ってのは、ほんとうに無限の可能性を持っているものね。世界の中に世界があって、さらにその中に小さな世界が存在する。逆に、世界の外にも世界があり、さらにその外側にも世界が広がっている。いつかどこかで一番外側や一番内側に到達するのかしら?」

 その言葉に対して、天使である僕は返答する。

「枠の中に物語があり、その枠の中にも物語がある。際限なく枠は作られていき、どこまで行くのかわからない。枠の外にも物語があり、その外側にも物語がある。これまた、どこまで行くのかわからない。けれども、一番内側と一番外側は実はつながっているのかもしれませんよ」

「メビウスの輪のように?」

「そう。我々が認識している内側・外側とか大きい・小さいなんてものは、実は些細(ささい)なこだわりに過ぎないのかも知れません。重要なのは、位置や大きさではなく、価値なのでは?」

「価値?」と、シェヘラザードは不思議そうに問い返してきます。

「そう。たとえば、物語の価値。とんでもなくスケールの大きなお話なのに、なんだか味気なくそらぞらしく殺風景に感じられてしまうことがある。逆に、身近な何気ない日常のエピソードに人は涙することもある。重要なのは、その人にとっての“物語の価値”なのでは?」

「なるほどねぇ。確かにスケールの大きさだけで感動の度合いは(はか)れないわ。でも、それは一体どういう基準で決められるの?その人の主観によるものなのかしら?それとも、万人に共通の価値観が存在する?同じ作品から、大勢の感動を引き出すことだってあり得るでしょ?」


 フゥ~と一息ついてから、僕は答える。

「いい質問ですね。それは主観であり、客観でもあります。なぜなら、客観とは主観の集合体だから。ひとりひとりの感動が積み重なって、やがては集合体の評価へとつながっていきます。そして、それこそが、我々の存在理由でもあるのです。我々は、この世のあらゆる物事に対し『価値』を与え続けなければならない。それが仕事であり、使命なんです」

「そうね。以前あなたが言っていたように、私やあなたが“本の中の登場人物”であり、この本を読んでいる“読者である誰か”がいたとしてよ。その誰かに価値や感動を届け続けるコトこそが、私たちの存在意義であるのでしょうね」

「その通りにございます。わたくしの使命は、1001夜に渡って物語を語り続けること。それと同時に、世界のどこかに存在する読者に向かって、物語を提供し続けることでもあるのです。シェヘラザード様。あなたをも巻き込んで」

「アララ、やはりそうなるのね。仕方がない。もうしばらくの間、おつきあいしましょう。こうなったら、乗りかかった船ですから」

「そうしていただけると幸いです」

 そう答えながら、僕は自分の中にある別の使命に思いを()せる。目の前に座っている女性にもまだ伝えていない真の目的に…


 代わりに、僕はこう言い放った。

「先は、まだ(なご)うございます。ようやく長きに渡る旅の3割に到達しようかというところ。7割以上の時間を残しているのですから…」

「そうね。長いつき合いになりそうね。“私が途中で飽きてしまわなければ”のお話だけど」

「おお、怖い!怖い!それでは、シェヘラザード様に飽きられないよう、これからも工夫し続けなければ!」と、僕はわざとおおげさに驚いてみせる。

「そうしてちょうだい。さもなくば、明日にもあなたの首をはねてしまうかもしれないわよ」と、彼女は冗談にも本気にも取れるようなセリフを口にした。


「では、明日からは、また別の物語を語っていくといたしましょう。それでは、今夜はこの辺りで…」

 そう言って、天使である僕はその日の役割を終えた。

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