~第299夜~「邪神、勇者、時々人(その89)」
人としての人生を終えた創造神は、自らが課した制約通り、全ての能力と記憶を取り戻し、天界へと帰ってきました。
空中に半透明のディスプレイを呼び出すと、さっそく各世界の状況を確認して回ります。
花畑ナオミとしてひとりの人間の時間を過ごしている間、世界は劇的に変貌を遂げていました。
地球を中心として、いくつもの世界への道が通じ、その中心となっているのは、かつてナオミが暮していた“夕空市”であります。
ナオミが暮らしていた街には、たくさんの異世界へのトンネルが開通していました。
それは、まるで蜘蛛の巣のごとき張り巡らされた高速道路といった様相。それらのトンネルを伝って、多くの異世界人がこの世界にやって来ていました。
こちらの世界を訪れた異世界人たちは、その圧倒的な魔法力を持ってして、大金持ちになったり、政治家になったり、発明家として名を馳せたりして成功者となっています。
逆に、こちらの世界から異世界へと新たな文化や科学力を持ち出して活躍した人物も大勢いました。
「フム。見事なモノだ」と、創造神は各世界を見て回りながら感心しました。
今や創造神の中には、かつての記憶と能力だけではなく、ナオミとして過ごした時間に得た経験や知識も融合しています。それゆえ、人として過ごす以前とは少々性格も変化してしまっていました。
ただ、おつきの天使としては、それは喜ばしいコトのようです。
「創造神様は、前よりも性格がまろやかになりましたね。昔はもっとトゲトゲしていて、自分の好奇心を満たすためならば、どのような犠牲もいとわないタイプだったのに」と、天使が声をかけてきました。
「そうか?自分ではあまり変わった風には思えないのだが…」と、空中に浮いたディスプレイを食い入るように眺めながら、神は答えます。
「変化というのは、自分自身が一番理解できないモノですよ。たとえば、人間の赤ん坊がいい例でしょう?赤ん坊は自分の成長を認識できますか?できはしません。けれども、半年も会っていない親戚がひさびさに顔を合わせると、その成長ぶりに驚きを隠せないはず」
「フム、なるほどな。私もまだ成長できているということか。赤子のように。それは、喜ばしいコトであるな」
「ハイ。成長なき者は、生きる価値もまたなし。これは、あなた様のお言葉でしたね」
「そういえば、そんなコトを言ったかもしれんな。確かに、変わらない者はつまらない。たとえ、それが神であろうが人間であろうが、他の生き物であろうが皆同じ。変わらぬ時を過ごす者に存在価値があるのだろうか?」
「わかりません。あるいは、1万年、100万年、1億年を同じ姿で生き続ける者にも価値はあるのかも。それに、どのような者であろうとも、ある日突然進化を遂げることはありましょうし」
「“突然変異”というわけだな。それゆえに、成長は長い目で見ねばならんというコト。目の前の姿だけを見ていては、その者の真価を見誤る。それもまた、私が人間としての時間を過ごしている間に学んだコトの1つだ」
創造神の言葉を聞いて、「ハイ」と天使は小さくうなずきました。
「…とはいえ、この短期間でよくここまで世界を発展させたものだ。私は感心しているよ」
「えぇ、アタシもそう思います。人間の力というのはあなどれぬものにございます。ほんのちょっとキッカケを与えるだけで、劇的な進化を遂げることのできる生き物」
「フム。この調子なら、私の手助けもあまり必要ないかもしれないな」
「いえ、創造神様。そのようにご謙遜なさらずに。まだまだ至らぬところも多い人類に、これからも力を貸し続けてあげてください」
フゥ~と神は大きく息をつくと、しばらく考えてから答えます。
「人間になり、親というものも体験してみた。そこで得た経験からすると、親はあまり子供に干渉しすぎない方がよいらしい」
「…というと?」
「過干渉は、得てして弊害をもたらす。たとえば、親の助けなしには何もできぬ大人に成長してしまったりな」
「なるほど。神もまた親のようなモノということにございますね」
「その通り。みだらに人間世界に干渉せず、黙って見守ってやることこそ、我々にとって最善であるようだ」
「では、創造神様は、今後どのように世界を導いていくおつもりですか?」
「そうだな……まずは、これらの世界の情報を集め分析・解析することから始めてみようと思う。そこから導き出されたデータを使って、新たな世界を創造してみたい。これまでと全く異なる世界を」
「全く異なる世界?」
「そうだ。世界は極端な方がおもしろい!極端な思考の持ち主ばかりが集まった極端な世界だ!たとえば、“男だけの世界”“女だけの世界”“究極の差別主義者が支配する世界”といった感じでな」
「フフフ…そういう所は以前と全くおかわりがありませんね」と、天使はうれしそうに笑いました。
さて、今夜もそろそろお時間となったようです。
それでは、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




