〜第2夜〜(「魚釣りのチート能力(その2)」「自分勝手な勇者」)
2日目の晩がやってきた。
僕は、昨晩の「魚釣りのチート能力」の続きを語る。
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街の市場で人々から怪しまれていることに気づいた漁師は、湖で能力を使います。
その日釣れたのは「魔法の絨毯」でした。
大切なモノをいくつか乗せ、自分も絨毯に飛び乗ると、漁師は遠い国へと旅立ちました。絨毯は「空飛ぶ絨毯」だったのです。
「バハハ~イ!みんな!」と、漁師は眼下に広がる街の景色と豆粒みたいに小さな人々に手を振りながら、叫びました。
数時間も飛び続けると、隣の国に到着しました。
人気のないことを確認し、漁師は絨毯で大地に降り立ちます。
その後は、新しい生活を始め、特殊能力で釣り上げた品々を売り払い、近隣住人にバレないよう質素に暮らしました。
けれども、その生活も長くは続きません。何年もすると、やがて人々に怪しまれ、そのたびに未知の土地へと引っ越し新しい生活を始めるということを繰り返しました。
「魚釣りのチート能力」は、いつも漁師を助けてくれました。
時に武器を、時に豪華な衣装を、時に「姿を隠す魔法のマント」をといった感じで。
漁師は貴族になったり、農家になったり、武器商人になったり、人生を謳歌します。
そんな風に暮らしていると、いつの間にかいい年になり、急に結婚したくなりました。
「長い間、あちこちを旅して回ったが、そろそろどこかに腰を落ち着けて暮らしたいものだ」
そう考えた漁師が最後にたどり着いたのは、ある国の王宮でした。
昔、この国にはそれはそれは美しいお姫様が住んでいたのですが、悪い魔神にさらわれて行方不明になっていたのです。
漁師は、王様の前に進み出ると、こう提案します。
「王様。もし、行方不明になったお姫様を見つけ出すことができたら、私と結婚させてもらえますか?」
半分あきらめかけていた王様は2つ返事でOKします。
「ああ、いいとも。本当にお前が姫を見つけ出し、連れ帰ることができたならな」
その言葉を聞くと、漁師は安心し、王様に向かって尋ねます。
「では、王宮のお風呂場をお借りしてもよろしいですか?それも、お湯をいっぱいに張って」
王様は「不思議な提案をするものだ」とクビをかしげましたが、漁師の提案に素直に応じます。
「よかろう。好きにするがよい」
「ありがとうございます。では、さっそく」
漁師はそう答えると、王宮にある巨大な浴槽いっぱいにお湯を張らせました。
「ああ。ヤケドしないよう、少しぬるめに頼むよ」
漁師の指示に従って、侍女たちは少しぬるめのお湯を入れました。
「さて、これで準備よし、と」
そうつぶやくと、漁師は釣り竿を取り出して、大きな釣り針をつけると、お湯の中に糸の先をつけました。
しばらくすると、手ごたえがあり、竿の先がググッと水面へと引き寄せられます。
「これは大物だわい」と言いながら、漁師はこれまで出したことのない力で竿をひっぱりあげると、見事に1人の美しい女性を釣り上げたのでした。
「おお!これはまさしく、いなくなってしまった姫じゃ!」と、王様は喜びます。
その様子を眺めていた周りの人々もみんな手を叩いて喜びました。
「さて。では、約束通りお姫様と結婚させていただけますね?」と漁師が尋ねると、王様は「もちろんじゃとも!」と答え、ふたりはめでたく結婚し、漁師は王様の後を継いで立派な王となり、人々を幸せに導きましたとさ。
めでたしめでたし♪
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「悪くはないけど、ちょっとベタ過ぎるわね」と、シェヘラザード。
「フム、なるほど。もっと風変わりなお話がお望みですか?では…」と答え、僕は次の物語を始めた。
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「自分勝手な勇者」
ある時、ある世界に、例のごとく新しい勇者が転生されてきました。
ま、こういうのはよくあるコトなんです。「トラックにひかれた」とか「誤って死なせてしまった」とかで、神様が「平凡な人間を異世界で生まれ変わらせる」なんて事態は。
で、その際に、神様が転生者に特殊能力を1つ与えてやるんですね。
今回転生されてきた男も、いつものようにチート能力を1つ与えられます。ベタなチート能力で「望んだ女性が勝手に自分を好きになってくれる」なんてものですよ。
勇者に転生した男は、自分の能力をフルに活用し、やりたい放題!
目についた女性を片っ端から自分のモノにしていきます。もはや、女性は全員奴隷ですね。
街の人々は、そんな勇者の姿を見て、内心快く思っていませんでしたが、さすがに口に出すことはできません。
なにしろ、相手は立派な勇者様なんです。逆らったら、何をされるかわかったものじゃありませんからね。
この勇者、実に自分勝手なヤツで、女の子を取っ替え引っ替えしては、飽きたらポイ~ッってなもんですよ。
一緒に旅するパーティのメンバーを替えては、冒険を楽しみます。
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「おっと、そろそろ夜が明けそうですね」と言って、僕は物語を打ち切った。
続きは、また明日の夜に。