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3-1 学び舎へ

 ◇


 翌日の朝――。厳密にいえば幽世には朝日が昇らないため、壁にかけられた幽世時計や鳴り響く鐘の音で一日の始まりを把握し、朝餉を経てから学び舎へ向かう。


 初めて向かう学び舎へは、橋前のバス停から小粋な學車に乗って空を飛ぶこと約十数分。


 宙に浮かぶ島と、その広大な土地に聳える近未来的な建造物が見えてきた。


(わ、すごい……)


 幽世に来たときもその壮大さにある種の感動を味わったが、学び舎との対面もまた、言葉にならないほどエモーショナルな刺激を受ける。


 正門と事務局らしき建物は朱色で和の様相。幻想的な庭を挟み、所々に屹立している別棟はそれぞれ西洋風だったり、ゴシック様式風、バロック様式風、ムデハル建築様式風に、中華風、書院造り風など。さまざまな趣向の建造物が島の中にいくつも建ち並んでおり、それぞれの学部の個性が犇いているように見える。


(私は医學部だからあの朱い楼閣か。ずいぶん迫力あるなあ……)


 医學部の学舎は事務局のすぐそばで、その近隣には川を挟んだ先にゴシック様式で誂えられた大講堂と食堂、図書館らしき建物が並んでいる。


 入学許可証とともに送られてきた学校案内図を見ながら場所をチェックしているうちに學車は正門前に到達し、そこで降車して入学式の会場である大講堂を目指す。


(すごい人だな。お祭りみたい……)


 周囲は、学び舎指定の学生服や外套を纏った人の姿で溢れていた。


 ――というのも、学び舎に通うあやかしは、基本『人の姿』に化けて通学するのが儀礼的なマナーになっているようだ。


 もちろん、何か理由があって、もしくは反骨精神でそのままの姿で通うあやかしや、うまく人の姿に化けられずしっぽが出ていたりサイズ感がおかしかったりする者なども時折見受けられるが、大方、『人の姿』と称して差し支えはないだろう。


 門人にはあやかしだったり、人間だったり、幽霊だったり、時には神さまだったりと幅広い種族がいるわけで、種族間の偏見や確執を取り除くためにそうしたマナーが誕生したのだと、いつだったかじいちゃんに聞いたことがある。


(なんだかハロウィンの仮装者が混ざった、普通の大学の入学式みたい)


 そんな鷹揚な気持ちがわきつつも、ここまでうまく化けられると人間とあやかしの区別がつかなくなるのが難点だなぁなんて呑気に考える。


 ふと、正門通りの中程で見覚えのあるニット帽の少年の姿を見つけた。


「あっ」


 ――あれは、昨日悪い鬼たちに集られていた翠色の瞳の少年だ。


 彼は人の波に反し、大きな木の下で困り果てたように足踏みしている。


「あの」


 きっと入学許可証を持った鬼たちを探しているのだろうと思い、足早に歩み寄って声をかけようとしたところ、


「!」


 まるでおばけにでも遭遇したかのように目を見開き、口をぱくぱくさせて後退る彼。


「……、……っ!」


「あの? 昨日、紅葉通りの近くにいた方ですよね? あなたの入学許可証……」


 鞄から許可証を取り出して手渡そうと思ったのだが、声なき声を発した彼はものすごい速さでその場から走り去っていく。


「え、あれっ。ちょっ」


 あまりの素早さに呼び止める隙もなく、途方に暮れる私。


(ど、どうしよう……。せっかく許可証を返せると思ったのに)


 追いかけたいが、この人混みの中で彼を探し出すのは至難の業だろう。


 そもそも、この許可証がなくても左手の甲に刻まれた學生証があれば学舎内に立ち入れるはずなので、問題はないはずなのだが……。


(まさか知らないってことはないよね。案内状にも書いてあったし。……仕方ない。これは事務局に引き渡すか、またの機会に彼を探して手渡すか、どちらかにしよう)


 渡しそびれた許可証を鞄の中に戻し、致し方なく踵を返す。


 それにしてもなぜあんなに驚いたんだろう……と内心で首を捻りつつも、迫り来る入学式の開催時間に急き立てられるよう再び大講堂を目指した。


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