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6-3 意外な協力者

「は?」


「なっ」


 突如として繰り出された、私のトンデモ発言に目を瞬く二人。


 すぐに二人からは鋭いツッコミが飛んでくる。


「ちょっと花染さん⁉︎ あなた、本気で言ってるの?」


「うん、本気だよ」


「『本気だよ』じゃ、ないにゃ! っつうかなんでいきなり零番街にゃんだよ⁉︎」


「だって、今聞いた話が本当なら、一族はみんな犬飼くんに殺されちゃってるから現世に足を運んでも関係者には直接会えないってことでしょう?」


「それはそうだけど……関係者に会って一体どうするつもりなんだよ?」


「それはもちろん、特に術者であり飼い主でもあるその人間の相棒――『犬神使い』の人に真相を確かめたり、本当ならなんでそんなことしてたのかとか、ペットであったはずの犬飼くんのこと、本心ではどう思ってたのかとか……そういうのをちゃんと自分の目や耳で確かめたくて」


「お前なあ……。確かにそれは気になるところだけど、普通に考えて危険すぎるだろ! 噂じゃ、相手は相当悪どい方法で荒稼ぎしてたようなイカれた男らしいし。会いに行ったところで正直にアレコレ話が聞ける保証もなければ、そもそもまともな真実がそこにあるとも限らねえんだぞ⁉︎」


「うん、わかってる……でも、さっきの犬飼くん、やっぱりどう考えても変だった気がするし、このまま放っておいたら彼はどんどん孤立して、心が壊れてしまったり下手すれば闇堕ちでもしちゃうんじゃないかなって」


「それは……」


「手遅れになる前にやれるだけのことはやっておきたいし、無駄足かもしれないけど、でも、もしも犬飼くんの心が少しでも晴れるような真実が零番街のどこかに転がっているのなら……ちゃんと見つけ出してあげたいんだよね。このままじゃ私だって、術者と同じ人間として彼に顔向けできないもの」


「……」


 真摯な気持ちでそう訴えると、玉己くんはぐっと唇を引き結んで押し黙った。


 ずっと仲が良かったみたいだし、人間に対する蟠りを払拭した玉己くんにとって、どこか耳の痛い話だったのかもしれない。


 するとここで、黙って話を聞いていた小雪ちゃんが再び口を開いた。


「まぁ、あなたのお節介は今に始まったことじゃないし、花染さんの気持ちはよくわかったわ。でも……零番街への道は難航しすぎて諦めてたんじゃなかったの? あの厄介な天堂先生を懐柔しない限り、あったところでどうにかなるわけでもない招聘研究員特務許可証の発行も無理だろうし、零番街は街管理局の監視が厳しいから立ち入りもかなり難しいはず。一体、丸腰でどうやって零番街のゲートを突破するつもりなの?」


 取りなすようにそう尋ねられ、私は少々逡巡した後、正直に話す。


「それは、えっと。ずっと考えてたんだけど、『アレ』はどうかなと思って」


「『アレ』?」


「ほら。シキちゃんが持ってたお菓子……」


「! も、もしかして『冥土の土産』のこと?」


「うん。あれを食べれば、一定期間は『冥界の住人であると認められる』んだよね?」


 首を傾げて見せると、目を瞬いた小雪ちゃんは口をあんぐりと開き、


「たっ、確かにそれはそうだけれど……いやでも嘘でしょ⁉︎ っていうか、真面目そうな顔して、よくそんな大胆なこと思いついたわね⁉︎」


 と、感心するような――いや、呆れてるのかな? まなこで、私を二度見した。


 へへへと笑って見せると、すぐさま傍らでやりとりを聞いていた玉己くんから鋭いツッコミが飛んでくる。


「おいおい。なんの話かよくわかんねえけど、まさか冥土のモンを食って、住民になりすまして零番街に潜り込むって魂胆じゃねえだろうにゃ?」


「ご名答! そのまさかだよ」


「お前ってやつはなァ……! そもそも黄泉の庭の食物ってのは人間が口にしたら、」


「大丈夫だよ玉己くん。調べたけど、現世食材と幽世食材の混合タイプのもので口にする量をきちんと調整すれば、一定期間幽霊化するだけで、効力が切れればちゃんと元に戻れるみたいだから。學園にはバレないようこっそり行くし、誰にも迷惑はかからないはず……」


「待て待て待て。その思考がすでに危険だし、そもそも一人で突撃するつもりだったのかよ⁉︎」


 驚愕の眼差しで問いただしてくる玉己くんに力強く頷いてみせると、彼はお手上げといった感じで天を仰ぐ。すぐさま脇にいた小雪ちゃんが見かねたように身を乗り出してきた。


「そ、それはだめよ花染さん! できれば、その、私も一緒に行ってあげたいところだけど、でも……私、実はその、オバケとかすっごく苦手なタイプで……あ、でもほら、代わりといっちゃなんだけど、そこはタマを連れて行けばいいとして、」


「おい待てガキンチョ、何勝手に俺を同伴させる流れにしてるにゃ⁉︎」


「あらでも花染さんがどうしても行くって言うならどうせついて行くつもりでしょ? よっぽど彼女のこと心配してたみたいだし」


「そっ、それは……」


「それに、これはあんたの親友の話でもあるんだから。あんた化け猫で下級の中でも多少は火力がある方なんだから、少しぐらい体張りなさいよ」


「ぐ……。ま、まあ……犬飼のためなら……。それに、もしかしたら夢子にも会えるかもしれねえし……同行自体は、悪かねえけどよ……」


 小雪ちゃんがジト目で玉己くんを見つめると、彼はぶつぶつ言いながらも次第に大人しくなった。その様子を見て、苦笑を漏らしつつ頬をかく。


「二人とも、なんか結局巻き込んじゃってごめん……」


「それは構わないわよ。そもそもはじめに首を突っ込んだのはこっちだし」


「うう、小雪ちゃん……」


「かっ、勘違いするにゃよ! 俺がついてくのは、あくまで犬飼のためだからな!」


「玉己くんも……ありがとう」


「礼を言うのはまだ早いにゃ。そもそも零番街だぜ? 俺がいくにしたって下級あやかし程度の妖力じゃどうにもならないことの方が多いと思うぞ? 相手は実体のない幽霊なんだし」


「そこなのよね。タマ程度の同行じゃちょっと不安が残るっていうか……。せめて上級あやかしが一人でもいれば、万が一の時に心強いんだけど、さすがに反対していた天堂先生を連れ出すのは無理だろうし、他に上級の奴らで知り合いと言えるようなのは……」


「――なら、面白そうだし、僕が行こうか?」


「……へ?」


「ん?」


「え……」


 三人、仲良く頭を寄せ合って話をしていた私たち。


 ふいに輪の外から投げられた声に反応するよう一斉に振り返ると――。


「なっ」


「う、嘘でしょ……」


「ななななな、くくくくく九我白影……!」


「『さん』ぐらいつけたらどうかな、化け猫くん」


 そこには予想だにしていなかった彼……妖狐族頭領の後嗣、九我白影さんの姿があり、私たちは驚愕のあまりただただ茫然と目を見開いて彼を見るのだった。



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