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3-4 未曾有の事態

「し、信じられない……妖狐族、九我家のハク様よ!」


「うわあ、素敵。なんて美しい御仁なのかしら」


「まじかよ。九我家の後嗣と同じ組引き当てるなんて……」


「クワバラクワバラ。目ぇつけられないようにしねえと」


 所々から聞こえてくるひそひそ声。女子からは好意的な、男子からは畏怖的な言葉が多く聞こえてくるため、男女で反応に大きく開きがあることがよくわかる。


(九我白影さん……。悪い人じゃなさそうだけど、目をつけられないように気をつけなきゃ)


 肝に銘じつつ私も近くの空いた席に腰をかける。それまで賑やかだった教室には急にしゃんと背筋が伸ばされたような緊張感が広がっていて、これも九我家の効力なのだろうかと肌で感じていたところ、事務局員さんが教室にやってきて手際良く資料を配布し始めた。


「間もなくオリエンテーションが始まります。資料をお配りしますので、着席のうえ担当教員が来るまで中身をご確認ください~」


 前列に資料を配り終えるとそれだけを言い残し、足早に去っていく事務局員さん。


 すると、前列より順に資料を手にしたクラスメイトより再びどよめきが起こった。


 なんだろう? みんな、添付資料の組名簿を見て周囲の人たちと何やら小声を交わしている。


 不思議に思いながら手元にやってきた資料と組名簿に目を落としたが、真っ先に私の目についたのは、何よりも『河太郎』の文字だった。


(あ! これ、あのニット帽の少年の名前だ。すごい奇跡。同じクラスだったんだ……)


 まさかの奇跡に感動すら覚えたけれど、室内を見渡してもやはり彼の姿はない。今日はあのまま帰ってしまったのだろうか? ……なんて、一人呑気にそんなことを考えていた私とは裏腹に、他のクラスメイトたちはそれどころではなかったようで名簿に視線を落としながら何やら密談を交わしている。


「おい。見てみろよこの組名簿!」


「え。なになに……って、嘘だろおい。〝鴉屋(からすや) 弥勒(みろく)〟って……鴉屋家の名前まであるじゃねえか!」


「うへえ! 九我家に鴉屋家まで……。この組、大丈夫なのか⁉︎」


 口々に驚嘆の声を漏らすクラスメイトたち。


 つられるようにして今一度我がクラスの名簿を確認すると、確かに九我さんの名前の他に〝鴉屋〟さんの名前も書き連ねられていた。


(九我さんに鴉屋さん……)


 クガケ――狐――妖狐族。


 カラスヤケ――烏――……天狗族?


 縁さんは、狐、烏、鬼の三種が上級あやかしだといっていた。


 また、先ほどの犬と猫のあやかしさんも、その三種は三つ巴で史上最悪の犬猿の仲だと評していたし、そのうちの二種が同じ組になってしまったということは、これはもう未曾有の事態なのかもしれない。


 ちらりと、遠くの席に座る九我さんを見やると、彼は資料に目を落としたまま冷ややかな表情を浮かべている。


 一方、口々に噂されている鴉屋さんについては未だ姿が見えないまま。


(いずれにせよ……なんだか大変なことになったみたい。嫌なことが起こらなければいいんだけど)


 不穏な空気になんだかとてつもなく嫌な予感を抱いた私だったのだが、始業開始のベルが鳴り、教室のドアが開いたところでその予感は確信に変わった。


「えっ」


「うおっ」


「ちょ、なになに、なんで⁉︎」


「ひ、ひえ……まじかよ!」


 三度目のざわめきに、胸をざわつかせながら顔を上げる。


 教室の入り口に悠然と姿を現したのは――漆黒の髪の毛に、すらりと伸びた身長。書生風の装いに、鋭く光る紫色の眼。


「なっ……」


 冷徹な表情のまま教壇に上がったその男と目が合った。


 彼はふん、と口の端をつり上げて不敵な笑みを浮かべる。


(う、嘘でしょ……!)


 絶句したのは私だけではない。


 動揺で静まり返った教室内に、彼は低く重みのある声を響かせる。


「本日よりこの組を担当することになった臨時教員の天堂要だ。よきにはからえ」


 狐、烏、鬼――。


 ものの見事に揃ってしまった三つ巴に、しばしの間の後、教室内はその日いち驚愕の声を口々に漏らしたのだった。


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