早朝
ネコがその鋭い爪牙を振りかざしてきたのは始まりに過ぎなかった。
何時もより早く目が覚めたので何時もより早い時間に出かけただけ。たったのそれだけだったのだが、これほどまでに世界とは時間で変わるものかと驚かされた。
基本が黒で背中に三本の赤い線の様な模様が入っているそのネコは、自身の持つ鋭い爪を光らせながら振りかぶってネコジャンプ、上方から斜めに勢いをつけて引き裂いた。
私は咄嗟に鞄でガードする事に間に合った。私自身は爪撃を喰らわなかったが、丈夫だと思っていた鞄は見事に引き裂かれた。
近くで見て分かったのは、そのネコの背中の模様は他の何者かの爪撃を喰らった傷痕で、模様などという穏やかなものではなかったと言うことだ。歴戦のつわものと言う奴だろう。
そんな思考の隙を付いて、ネコは真下から私の首元に噛み付こうと牙を光らした。私は隙を付かれたこともあって腕でガードする他なかった。
まるで犬のドーベルマンのように噛み付いて離れないネコは、私の腕にぶら下がりこちらを鋭い眼で見つめている。
その時やっと気が付いた。こいつは私を取りに来ている。
さすがにそんな奴を小動物だからって手加減をしている場合ではなかった。噛み付かれた腕を思いっきり振り回してネコを剥がして壁にぶち当てた。ネコはニヤァと唸なりながら立ち上がると、チラリとこちらを見てゆっくり去って行った。
あんなネコが近所に居たのか。まるでネコ科の猛獣じゃあないか。ネコはネコ科だが猛獣じゃあない筈なのに。
私の腕からは血が流れていた。傷口を洗った方がいいかな。何て考えている場合ではなかった。
目の前には人と大体同じ大きさはあるだろう狼の様な姿の犬が、こちらを一転の曇りもない無機質な眼で見つめていた。
その目には見覚えがある。それは先程のネコと同じものだった。
私は横に偶然立っていた樹の枝を蹴り折って持ち構えた。先程はネコの牙だったから血が流れる程度で済んだが、目の前の犬からは腕に噛み付かれたら決して離れない予感が伺えた。
私は木の棒を構え犬の鼻先でひらひらさせた後、犬の後方へ思いっきり投げた。
犬はそんなつもりはなかったのだろうが、つい木の棒を取って来ようとして後ろを向いて走り出した。
そして、その隙を付いて私はその反対へ走り去ることが出来たのだった。
その後私は、イノシシを退け、ワニと戦い、水中でサメから逃れ、熊と相対した。
そして今、目の前に名刀を持った剣豪が立つ。
早朝ってなんなんだ!