仲直り
読んでいただきありがとうございます。
「お姉様!!!」
「リアーノ!!!」
ほぼ同時に名前を呼び合い、もうその後は声にならなかった。
「…おねえ…さま、よくごぶじ…で」
ぎゅっと固く抱き合うと、お姉様の温かい体温を感じることができて、無事だったんだとより実感が湧き上がってきて、涙を押さえようとしても押さえきれなくて溢れ出てくる。
「リアーノ、あり…ありが…とう」
お姉様も涙声だ。
お互い抱きしめたまま、うんうんと頷き合い、しばらくは幸せな時間を噛み締めるかのように抱き合った。
「しお…り、わかり…にくかったです」
「…………」
少し落ち着いたので、叙事詩に挟んであった栞のことを伝えると、涙声だったのに少し間があってからお姉様は急に笑い出した。
お互いに顔を上げて、お互いの手を握り合い、自分とよく似た色の瞳と見つめ合う。
急に笑い出したお姉様の屈託のない笑顔のおかげで、込み上げていた涙が引っ込んだ。
「お、お姉様?」
「ふふ、ふふふ…リアーノは見込みどおり気づいてくれたわね」
なんだか得意げなお姉様。
「赤いリコリスの花言葉は「独立」「情熱」「再会」ですよね。王妃様やターナーさんのおかげでわかりました」
「お母様やターナーに会ったということはやっぱり身代わりをしてくれていたのね!」
急に表情が思いっきりパッと明るくなった。
「お姉様!「やっぱり」とはどういうことですか?この事件のことはどこからわかっていたんですか?」
お姉様のそばにいたフィリップ様も身を乗り出して、私達の会話を聞いている。
「私がリアーノに叙事詩を送ったのは少しの違和感からで、あなたの意見を聞いてみたかったからなの。叙事詩を送った真意に気づいてくれるなんて、さすが双子ね。私の予想通りに身代わりもしてくれていたみたいだし!自分の好奇心と直感に感謝だわ!」
少しも悪びれもせずに本当にうれしそうで無邪気に笑うお姉様を見て、こんな事件に遭ったのに変わっていないお姉様に安堵する。
「お姉様、いっぱい話したいことがあるんです!」
「私もよ!」
「俺もだけどね」
「フィリップ!!!」
夢中で話していた姉妹の会話をじっとそばで聞いておられたフィリップ様が、会話に割って入ってぎこちない笑顔を浮かべる。
お、怒っている?
思わずその威圧感から、握り合っていた手をお互いに離した。
「フ…フィリップ、さっきは逃げるのに忙しくて言えなかったのですが赤いリボンをありがとう」
「当たり前だろう」
「あの赤いリボン、すごくうれしかったです。心の支えになったわ」
「俺もだ。ステファニーが赤いリボンを結んでくれたときは今すぐにでも君を抱きしめたかった」
横でおふたりの会話を聞いていて、おふたりだけが知っている赤いリボンの意味がすぐにわかった。
(「愛している」なのね)
誤解とすれ違いで小さな喧嘩をしたまま、お姉様が事件に巻き込まれて(この場合、巻き込まれに行った?)ずっとそのことを後悔していたフィリップ様。
お姉様も同じように後悔されていたんだろう。
この先からの会話はわたしが聞いていてはいけない気がして、そっとふたりから離れる。
フィリップ様がなにやら小さな喧嘩のことは「俺が悪かった」とおっしゃって、お姉様に謝罪されている。
お姉様が照れながら可愛く頷いていらっしゃる。
良かった。
大好きなお姉様とお義兄様が仲直りだ。
お邪魔なわたしはふたりに気づかれないように一歩、二歩と静かに下がっている間にフィリップ様はお姉様を抱きしめ、お姉様は再び幸せそうな顔をしながら、泣いてしまった。
不意に横に大きな影が出来たと思ったら、肩を抱かれた。
見上げるとアッサムが横に立っている。
「アッサム!!!」
「おふたりとも仲直りされたんだ」
「うん!あのリボンのやり取りでおふたりだけが知る甘〜い言葉をやり取りされていたみたい」
顔が思わず緩んでしまう。
「あのふたり、幼い頃からずっとあんな感じだぞ」
ジークがやれやれと言わんばかりの呆れ顔をしながらきた。
「そ、そうなの?」
「兄さんはステファニー王女殿下を溺愛しているからね。兄さんは一見、冷静で卒がなく見えるだろう。ステファニー王女殿下も多くの人は淑女の鏡のような方だと思っているけど、実はあのふたり、小悪魔的な行動力のあるステファニー王女殿下に振り回されて、それを嬉々として追う兄さんと言った感じの関係だよ」
んん?なんだかその溺愛という重い愛を知っているような。
あった!あった!身を持って体験したわ。
「だから、フィリップ様のお披露目の舞踏会のお姉様のドレスが全身フィリップ様の色だったんですね!」
「そうだよ。気づいてしまった我々が目のやり場に困るぐらいドレスの色は独占欲に満ちているし、リアーノが潜入の仕事でザッハに来ると知ったステファニー王女殿下が城を飛び出した時は一緒に来てしまうし、今回もここまで来てしまった。あのふたりには振り回されっぱなしだよ」
ジークは見ているこっちが恥ずかしくなるぐらい、抱きこむようにしてお姉様を強く抱きしめているフィリップ様を見ながら苦笑している。
「それではあのおふたりの周りはいつも何かが起きて、忙しいということですね」
「ジークも大変だな」
他人事のように、わたしとアッサムがジークを半ば楽しむように憐れむような眼差しで見ると、ジークが非常に嫌そうに私達ふたりを見る。
「ねぇ、君たちも同じだよ!自覚ある?君たちの周りもいつも事件や突拍子もないことで騒々しい!!」
その言葉にアッサムと顔を見合わせて、吹き出してしまった。
ほんわかしたムードに包まれたのは一瞬で、その後は騎士様たちに連行されて建物から出てくる男達や救出した方々の対応、花火会場の撤収などに追われて、アッサムもジークも私も休む間もなく駆け回った。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回、最終回です!
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