救出劇
読んでいただきありがとうございます。
フィリップ殿の視点からですよ。
花火が打ち上がっている時間は、そう長くはない。
よく持って10分程度だ。
花火の音に紛れるようにして10分で救出から捕縛まで全てを終わらせなければならない。
ステファニーを抱きしめられるような感動の再会を夢見ていたが、実際はそんなことをしている余裕はない。
子ども達の救出と同時に囚われていた女性たちも窓から屋根に出てきてもらい、縄梯子でジーク達が待つ地面に降りてもらう。
女性達は、小さい窓から這い出るだけでも大変だ。
部屋の中ではステファニーともう1人の女性で窓から脱出する女性達の身体を押して屋根に出るように促していた。
私は窓から脱出してくる女性を引っ張り上げ、縄梯子に上手く脚が掛けられるように手助けをする。
それにしても、通りで歩く人々は屋根の上で行われている救出劇に意外に誰も気づかないし、例え視界に入っても無関心のままだ。
むしろ、花火の音に気を取られている。
「アッサム殿下のおっしゃる通りですね。意外に誰も気づかないし、騒がない」
子ども達を仮店舗に預けて戻ってきたアッサム殿下に声を掛ける。
「人は意外と上を向いて歩かないですから。だから気づかれない。盲点ですよね。それに異常なものを見ても周囲の様子を伺って自分だけが違った行動を取らないようにすることが多いんですよ」
アッサム殿下が打ち合わせで言った通りだろうとニヤリとする。
これも「ダン爺」仕込みなのだろうか。
縄梯子で1人ずつ女性を下ろしていくことに、想定以上に時間がかかり過ぎている。
俺はポケットから懐中時計を取り出し、4分が経過したのを確認した。
「フィリップ殿、あとは義姉のみですか?」
突入に備えて地面に降りていた俺は、屋根裏部屋の窓際にいるフィリップ殿に大きな声で確認をした。
「アッサム殿下、その通りです!後は婚約者だけです!」
いまはセイサラ王国の騎士団の人間が何人もいる状況での救出だ。
さすがに隣国の王女殿下までもがその救出対象であることは明かせない。
「承知した!フィリップ殿、義姉をお願いします。こちらは突入を開始します」
その大きな一言で、ずっと出番を待ち構えていたジークが満面の笑顔だ。
俺が大きく頷くと、待っていましたとばかりに騎士団長の指示で扉がこじ開けられて、騎士とジークがなだれ込み、俺も後に続く。
中にいる男達を捕縛する者と火薬の所在を確認する者の二手に分かれる。
奥の方から、激しい怒号や何かが壊れる音が聞こえる。
荒仕事は騎士団に任せ、俺はジークと騎士の2、3名で火薬を探し出すが、すぐに見つけることが出来た。
そして、そのおびただしい量の投擲弾に我が目を疑う。
フィリップ殿とステファニー王女殿下が階段から走って降りて来られた。
ステファニー王女殿下の無事な姿に安堵する。
今すぐにでもリアーノに知らせてやりたいが、いまはこちらに急ぎ向かっている最中だろう。
フィリップ殿とステファニー王女殿下が俺とジークを見るなり駆け寄って来られた。
「アッサム殿下!ジーク!ありがとう!」
ステファニー王女殿下は以前にお会いした時より少しやつれられたように見えたが、3週間近くも囚われていたんだ。
そう考えれば、まだ随分と元気でいらっしゃるほうだ。
そして、階上に火薬の原料があること、1階奥に幻覚草があることを説明された。
おびただしい数の投擲弾の火薬の配合をここ最近はこっそり変えているので、威力が弱まっているであろうことも説明された。
ステファニー王女殿下はここで出来る限りの闘いを1人でされていたのだろう。
隣の建物は、あっという間に制圧することに成功した。
ほぼ同時ぐらいに花火も終わったのか、花火を打ち上げる音が止んだ。
俺は建物の外に出て、あらかじめ用意していた鳩を花火会場にいる「仲間」に向けて飛ばす。
制圧の完了と避難解除の連絡だ。
こうして、最悪の事態は避けられ、救出劇も幕を閉じた。
通りを歩いている人々もようやく、なにか騒がしいことに気づき遠巻きで見ている。
その間を縫うようにリアーノと兄上と護衛騎士が息を切らせながら戻ってきた。
「アッサム!上手くいったか?」
俺に似せた姿の兄上が真剣な表情だ。
「制圧は完了しました」
「よくやったな」
兄上が安堵の表情を浮かべ、俺の肩をポンとひと叩きした。
フィリップ殿とステファニー王女殿下が建物の外に出ておられるのをリアーノが見つけた。
リアーノとステファニー王女殿下は、お互いの目が合うと悲鳴のような声にはならない声を発したかと思うと互いに駆け寄り、固く抱擁をした。
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