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旧友

読んでいただきありがとうございます♪

「あらっ!あれ、アッサムよね?もしかしてリアーノのお迎え?」


 床屋を夫婦で営むアマシアでの旧友を訪ねた。

 床屋さんは髪を切ってもらう間、いろいろと話しをするので街の情報が集まりやすい。

 少年の服を着て金髪のカツラを被るわたしの姿を見て、驚くよりもお腹を抱えて大笑いをして旧友は出迎えてくれた。

 ふたりで店先でお互いの近況の報告をしながらお茶を飲んでいると、きょろきょろしながらわたしを心配して探しに来たアッサムが旧友に見つけられて、呼び止められた。

 気づけば、2時間近くはお茶をしていたらしい。女同士のお喋りの時間だけは恐ろしく時間が経つのが早い。


「あなた達はアマシアにいた時と少しも変わらないのね。ふたりの顔を揃って見られるなんて懐かしいわ。よくアッサムはこうやってリアーノのお世話してたわよね」

 旧友が懐かしい懐かしいと何度も口にして、屈託なく笑う。

 そして、「アッサム殿下」がアマシアで育ったことまでは公表されていないからか、最近話題の「アッサム殿下」だとは露ほどにも思わないんだろう。

 この状況に少しホッとする。


「なんだ。リアーノ、早く言ってよ。ようやくあなた達、婚約したのね。安心したわ」

「ちょっ、ちょっ!ちょっと待って」


 (プロポーズだけで、婚約はしていない!!!)


 素晴らしく派手にわたし達の関係を早とちりしている旧友に慌てて弁解しようとするが喋らせてもらえる隙がない。

「ふたりの新居を探していたのね!!早く恥ずかしがらずに言ってよ!わたしに任せておいて!これでも子育て中のママさんネットワークは世界最強なのよ」

 興奮気味で嬉しそうにしてくれる。


 この旧友の先走っちゃうとこや面倒見がいいところが相変わらずでとても懐かしくて、そして大好き!と思う反面、わたしの幸せを心から喜んでくれているその姿に本当のことを言えない罪悪感で心がチクリと痛む。


「で、新居兼お店なのね?どこの空き店舗が気になっているの?」

 アッサムが場所を丁寧に説明してくれる。


「あの通りの住居兼空き店舗ね。リアーノのカードの店を持つ夢がやっと叶うのね。良かったじゃない。それにしてもあのダン爺がよく許したわね。絶対にリアーノはアマシアから出れないと思っていたわ。てっきり食堂を継ぐんだと。まあ、アッサムが一緒だから出してもらえたのね!ふたりでお茶飲んで少し待っていて。あそこの持ち主の情報を聞いてくるわ!ついでに子守と店番をよろしく」

 友人は疾風のごとく、街の中に駆けて行った。



「ふふふ」

「さっきからなにを奇妙な笑い方をしてるんだ?」

 先ほどの友人の早とちりに恥ずかしそうにしていたアッサムが少しだけ怪訝そうに聞いてくる。


「特になんでもないわよ」

 アッサムが友人の家に迎えに来てくれたこと。ちょっぴりうれしかった。どんな言い訳をみんなにして探しに来てくれたんだろう。

 そして、わたし達の関係を早とちりされても訂正をしようともしなかった。

 そんな些細なことが単純にうれしかった。


 あれから旧友はアッサムに淹れたお茶が冷めるまでの短い時間で空家の持ち主を見つけて来てくれた。

 トントン拍子に話が進み、あれよあれよという間に契約までできてしまった。

 

 おじいさまの優秀な特殊部隊のみなさんが真っ青になるぐらいの子育て中ママさんの情報網。世界征服も本気になればあっさり出来ちゃうかも知れない。

 「世の女性を怒らせてはならない」とアッサムが為政者の顔で心に刻みつけるかのように隣で呟いていた。

 

 夕方近くのダンカは帰宅する人や夜の街の準備で賑やかだ。

 わたし達はみんなが待つ、例の食堂に大きな手土産を持って向かう。


「監視対象の建物の中の様子は見れたの?」

「まあね。作戦どおりかな。姿までは確認出来なかったけど、2階以上の部屋で女性と子どもがいるのはわかったよ」

「少しでも状況がわかって良かったわ。皇太子殿下がまさかの申し出ててくださるなんて思いもしなかったけど」

「俺も驚いた。いつも皇太子殿下は冷静だから兄貴の真似をするようなあんな一面もあるんだって」

「キーモンさんの真似、それ、見たかったわ」


 アッサムと手を繋ぎ、たわいもない会話をする。

 まるでアッサムがアマシアにいた頃に戻ったようでいまはこうしているのが夢みたいだ。


 こんな時間がずっと続きますように。

 夕焼けの空を見上げ、天に請う。


 みんなが待つ食堂に戻って報告すれば空き家が借りられたことに大喜びしてくれた。

 あれから、ひとりひとりがいま出来ることを必死で考え動いていたようだ。

 フィリップ様は監視対象の建物の裏で、干してある洗濯物を確認して、お姉様がいることを確信したらしい。

 詳しくは聞けないけど、お姉様はパンツに名前を書いていたのかしら?


 明日は家主さんとの立ち合いで朝から引き渡しだ。

 空き家の図面も手に入ったし、家主さんの話から隣の監視対象の建物の間取りも持ち主も大体は判明した。

 特殊部隊の方で、隣の監視対象の建物の持ち主と接触、場合よっては監視対象にするらしい。


 各方面からの報告に、明日からの救出作戦にと夜遅くまで話し合いは続いた。

読んでいただき、ありがとうございます。

不定期ですが更新中。


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが随分上がります。



☆お知らせ☆

第1章がコミカライズされました。

「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」

まんが王国さんで先行配信中。

作画は実力派の渡部サキ先生!

絵が綺麗で登場するどんな端役の方も麗しくきゅんきゅんできます!

マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。

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