りんごの木箱
読んでいただき、ありがとうございます。
アッサム視点からです
昨夕にダンカに到着をしてからすぐに、先に到着していた仲間と合流をし、状況の報告を受けた。
でもそれは期待以下のものであった。
我々の仲間が監視している建物からは、ステファニー王女殿下らしき人物をはじめ、女性や子供の出入りは確認できず、出入りしているのはもっぱら男ばかりらしかった。
その報告後は、明らかに落胆しているフィリップ殿とふたりで建物の場所の確認に行ったが、もちろんステファニー王女殿下の姿さえ確認出来なかった。
それでも少しでもステファニー王女殿下の近くにという思いから、ダンカの安宿に泊まったのだ。
王都サハには貴族の方の御用達というようなそれなりの宿もあるが、庶民の街のダンカにはそういったものはない。
空室もほぼなくフィリップ殿と同室だったが、フィリップ殿は良く眠れなかったようだ。
ステファニー王女殿下のことも気がかりで眠りが浅いんだろう。何度も何度も寝返りをされていた。
ジークから、フィリップ殿はここ何日もちゃんと寝られていないと聞いている。
彼の体調が気がかりだ。
そして今日は朝から、監視している建物の両横が空き家のため、見張るためにもどちらかの空き家を借りようと持ち主をみんなで手分けをして探しているが思いの外、難航中だ。
「そろそろ昼になりますね。一旦、食事にしませんか?」
俺は一緒に行動をともにしているフィリップ殿に声を掛けた。
さすがはニシア国の筆頭公爵家のご嫡男。
平民の服(アマシアでの俺の服)を着ておられるが、物腰の柔らかなそうで高貴なその雰囲気が全く隠せていない。
それでいてここ連日の心労でお疲れの様子なので、なにか物凄い色気が出ている。
「良いですね。少し疲れましたね」
俺の方に微笑みながら答えるフィリップ殿の色気に思わず、後退りしてしまった。
アマシアの友人が食堂を営んでいるのでそこに顔を出すと、なんとそこにはリアーノとジーク、そして驚くことに皇太子殿下もおられた。
「やっぱりここに来ると思ったわ!!!」
ジークと皇太子殿下に自慢げに「わたしすごいでしょ!」と褒めて褒めてと俺の少年時代の服を着て金髪のカツラを被ったリアーノが騒いでいる。
唖然としながらその様子を見入っていた。
リアーノが無事に俺の元に帰ってきた。
ようやく、少しずつ事態を飲み込め始めた。
視線を感じてそちらの方を見ると、ジークが誰にもわからないように俺に目配せをしてきた。
ジークがニヤニヤしながら、なにかを言いたそうな顔をしている。
「リアーノはここがよくわかったな」
「ダンカといえば、このお店に一度は顔を出しに来るだろうと思って。アッサム、仲良かったし」
チラリと友人である店主を見ると、うれしそうに顔を綻ばせた。
「ああ、リアーノには敵わないな」
そう言いながら、いつものようにリアーノの頭をポンポンと軽く撫でて、ハッとする。
俺、いまどんな顔をしているんだ。
いま、とんでもなく破顔している自分に気づき、思わず手で顔を覆う。
「ところで他の仲間の人から空き家の持ち主探しをしていると聞いたんだけど、見つかった?」
リアーノの質問に俺とフィリップ殿で顔を見合わせて、無言で首を横に振る。
「そうなんだ。わたしも後で知り合いを当たってみるわ」
リアーノが元気そうに言いながらも、誰にもわからないぐらいの一瞬、少し悲しそうな顔をした。
「兄さん、ステファニー王女殿下のお姿は確認出来たの?」
「いや、まだだ。あの建物の内部の様子が全くどういう状況なのかがわからないんだ」
その言葉に一堂がはああぁぁと暗いため息でずーんと空気が重くなった。
「あの…だったら手紙でも届けるふりをして、内部の様子を探ってみるのはどうですか?」
リアーノがいとも簡単に出来るような口ぶりに皆が一斉にリアーノを見る。
「ジーク、ほら!売るために持ってきたカードやペン先にインクがあるでしょう!今すぐに書けるし!」
「りんごの木箱のあれか?」
「そう!あれよ!少し待ってて」
そう言うと、少年のようなリアーノが表に飛び出して行った。
「りんごの木箱ってなんだ?」
「リアーノがいままでに集めていたカードやペン先を売って今回の旅費にするらしくって、たくさん持ってきているんだ」
ジークが困ったように笑う。
「はあ???」
俺は慌てて、リアーノの後を追った。
リアーノはなにを考えているんだ。
あんなにいつも大事そうに集めていたものを!
脳裏には王都サハの文房具屋で楽しそうにペン先を選んでいたリアーノが浮かんだ。
アッサムが!
アッサムが目の前にいるんだけど。
ここで待っていたら会えるとわかっていたけど、まだ心が準備不足だったようだ。
アッサムに会えた動揺で荷馬車に積んでいたりんごの木箱を持つ手が震える。
その時、自分の手に温かく大きな手が重なり、背中が大きなもので包まれた。
「リアーノ」
後ろから抱きしめられ、耳元で優しく名前を呼ばれる。
「無事で良かった…」
ボソッと耳元でアッサムが呟き、左頬に優しくキスをされた。
「ア、アッサム!」
驚いて、後ろを振り返ろうとするがぎゅっときつく抱きしめられていて、後ろを振り返ることもアッサムの顔を見ることができない。
「いまは俺の顔を見ないで。恥ずかしいから」
アッサムの熱がわたしの耳に伝わり、わたしの全身が熱を持つ。
心配していてくれたんだ。
いろいろジークから聞いているから、いまはその気持ちが痛いほどわかる。
ひとつゆっくり頷いて、この温かく安心できる場所に身を委ねた。
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