レナード殿下の秘密
そこには見間違うことがないはずのアッサムが、座っている。
「ーーアッサム?? アッサム…なんだよね。」
わたしの手に長い黒髪の束が握られている。
レナード殿下がうん。と静かに頷かれる。
「そうだよ。リアーノはいまごろ気づいたの?」
ひどく悪戯っ子の目だ。
「アッサムって、本当にいま気づいた!どういうことなの?」
黒い瞳がなにやらうれしそうだ。
「見ての通りだよ。俺はレナードもやっている。」
「アッサムが言ってた、近いけど遠くに行くという仕事はこれなの?レナード殿下の身代わり?」
曇った表情で少し考え、
「うーん。そうだね…。」
と、静かに肯定する。
「わたしが王宮に来てから見てたのは、全部アッサム??」
「そうだよ。孤児院に一緒に行ったのも俺だよ。まさか気づかないなんてね。リアーノは冷たいよ。」
アッサムが少し拗ねた顔をわざとして見せる。
「ものすごい麗しい殿下だと思っていて… 実際にそうだったけど。変装は素敵だったわよ。」
ここは正直に褒めておこう。
「リアーノ、ありがとうね。」
アッサムが優しく見つめてくれる。
なにか気恥ずかしくなって、慌てて視線を外し、握りしめていた黒髪の束を見つめる。
「これ… よく出来ているね。眼鏡もそこそこ似合っていたわよ。」
わたしも少し拗ねて見せる。
「だろ!髪も眼鏡もホーシャック公爵の発案だけどね。」
アッサムがおかしそうにクックっと笑う。
ホーシャック公爵も共犯でしたかーーー
「いつも執務室で着ている、仰々しいジャケットもパットが3枚重ねなんだぜ。靴も厚底だしね。」
そこまで、体型補正されていたら完璧ですね。
見慣れているアッサムでも、その変装に王子様補正が入ったら、これは気づかないわ。
「でも、どうして、こんな危険な仕事を引き受けるかなーー。てっきり、船で隣国に買付けに行ってるものとばかり思ってた。」
「リアーノがそう思うようにしていた。こんな仕事だって知っていたら、心配してくれた?」
アッサムが真剣な眼差しで聞いてくる。
「当然でしょ!こんな仕事と知っていたら心配するわよ。毒を盛られることもあるんでしょ!だから、アッサムがレナード殿下の身代わりしているんじゃないの?」
つい、力がこもる。
「確かに危険だね… でも、これが俺の仕事だから。」
きっぱり、言い切るアッサムの表情が少し寂しげだ。
「リアーノ、ところでどうして、こんなところにいるのかな?」
アッサムの目が少し怒っている。
この目はお説教されるやつだ…
いつも怒られる時はそうだった。
思わず、たじろいでしまう。
「あの… だからね、眺めの良い場所を探していたら、ここを見つけちゃって!」
わざとニコッとして戯けた顔をして見せるけど、アッサムには通用しません。
「リアーノこそ、危険だと思わないのか。いつもの実家の屋根とは訳が違うよ。いまも…」
アッサムはそう言いかけて、ハッとこちらを睨む。
「さっき、なにか聞いたよね。リアーノ。」
アッサムが確実に怒っているーー
さっきの男2人の会話のことですね。
「ううっ… ごめんなさい。聞くつもりではなかったんだけど…。」
はああああーーーー
アッサムが本当に困ったようにため息をつく。
「ごめんなさい。でも、このことだよね。」
スカートのポケットから、クシャクシャになった5ヤーロを取り出し、アッサムに見せる。
アッサムがびっくりした表情を一瞬見せ、険しい目つきになる。
「見せてもらってもいい?」
恐る恐るお札をアッサムに渡す。アッサムは透かしてみたり、撫でてみたり、お札を確かめている。
変な緊張感が走る。
「リアーノはこれに気づいたの?」
「うん。昼間にライラさまと貿易商のお店でお買い物をした時にもらったおつりなんだけど、手触りに違和感があって。これ、偽札だよね。」
さっきの男2人の会話からしても、これは偽札だと確信がある。
「…そうだ。これは偽札で間違いない。」
やっぱり!そうだった!!
ということは、アッサムはどうしてここに来た?
「アッサムはなぜ屋根に?まさか、この偽札と関わりが?」
アッサムが険しい表情で首を横に振る。
「俺は関わってないよ。むしろ、この出所を探している。仕事だよ。」
なるほど!レナード殿下の身代わりをして、この仕事を!
「いろいろ聞きたいけど、アッサムが諜報員ということかしら。」
「そうだな。秘密だぞ。」
さっきの険しい表情から一転、ニヤッとしたアッサムの表情にホッとする。
「この偽札の出所が解決したら、アッサムはアマシアに早く帰れるのよね。だったら、わたしも協力するわ。いつもアッサムにはお世話になりっぱなしだしね。」
アッサムに元気よくウインクして見せる。
アッサムが困っている。
「リアーノ、危険だぞ。これは遊びじゃないんだ。」
「あら、心配してくれるの?でも、わたしが言い出したら聞かないってこと、アッサムが一番よく知っているでしょ!」
アッサムが少し柔らかい目でこちらを見ている。
諦めたというようにふぅーと息を吐いて、
「では、リアーノ。よろしくね。でも、覚えておいて。俺はリアーノを一番に守るよ。」