アマシア〜王都サハへ
読んで頂きありがとうございます。
前回までが王城編。ここからが救出編かな。
「キーモンさん!アマシアが見えるわ!」
ニシアにお姉様の身代わりで出発してから今日までで1週間ほどのことなのに、夕暮れに佇むアマシアのぼんやりとした街灯りが遠くに見えてくると懐かしさと安堵で思わず心が躍る。
嵐に遭いながらもそのおかげで予定よりも少し早くアマシアに帰って来れた。
キーモンさんは嵐まで味方にしてしまうんだから、その手腕が末恐ろしい。
入港準備で慌ただしい船内を邪魔をしないように甲板の前方でアマシアの潮風をめいいっぱい感じているとキーモンさんが隣にやってきたのだ。
「これからが大変だな。リアーノ、気をつけて行くんだぞ」
「はい!」
わたしは大きく頷く。
「無茶はするな」
「………」
「無茶苦茶はするな」
「…はい!」
キーモンさんがニカっと笑う。
わたしもつられて、ニカっと笑った。
「次はステファニー王女殿下と一緒に俺の船に乗せてやるからな」
目を細くし、目尻の笑いジワを深くしてキーモンさんが優しく微笑む。
「必ずお姉様を連れて帰って来るわ」
キーモンさんがうれしそうにうんうんと頷いてくれた。
キーモンさん達は補給を済ませるとこれからまたすぐに出港だ。
先ほどまで皇太子殿下やジークと綿密な計画を練っていた。
キーモンさんもまたおじいさま達の特殊部隊の一員なんだとその光景を目にして改めて認識をさせられた。
下船後は、皇太子殿下とジークにお願いをして、おばあさまの待つ我が家に少しだけ寄ってもらうことにした。
身一つでニシアの王城を飛び出したので、どうしても取りに行きたいものがあるのだ。
食堂の扉を元気よく開けると、明日の仕込み中だったおばあさまは金髪のカツラを被り、アッサムの一丁羅を来た少年のようなわたしが誰だかすぐにはわからず、驚きの声を上げた。
「皇太子殿下とジークは40秒とは行かないけど少しだけお待ちください。すぐに準備してきます」
そう言い終える間もなく、食堂に置いてあったりんごの木箱を手に慌てて自室への階段を駆け登った。
荷馬車にりんごの木箱を積み込み、出発の用意を終えて食堂に戻ると、ちょうどおばあさまがおふたりに食堂の看板メニューである「帰れ!鶏肉へ」とパンをお出ししていた。
皇太子殿下は「これ、食べてみたかったんです!」と顔を綻ばせて召し上がってくださった。
おばあさまはそれがすごく嬉しかったのか、「もうお腹いっぱいなんです!」とその澄ましたお顔の眉をハの字にして皇太子殿下が必死におかわりを断っているのに「若者はしっかり食べないと!」と言い、何度も勧めていたのにはジークとお腹を抱えて笑ってしまった。
すっかり日も暮れて夜になってしまったが、王都サハに向けて出発することになった。
わたしが御者をしようとすると「夜だから」とジークが御者を務めてくれた。
「元宰相の元護衛騎士なんでこれぐらいは訳無い」とやすやすと荷馬車を走らせる。
本当にね。この人、公爵家ご子息様なのになんでも出来るのよね。
「ところでリアーノ。荷台に置いてあるりんごの木箱には何を入れてきたの?」
不思議そうにジークが聞いてくる。
皇太子殿下もそう思っていたのか、興味津々なご様子だ。
「あれですか?あれは今までわたしが集めたカードやインクにペン先が一切合切入っているんです」
「「えっ?」」
皇太子殿下とジークの声が重なる。
わたしはまだ金髪少年の格好をしたままだ。
てっきり、着替えの服を持って来ているのだとおふたりは思っていたに違いない。
「わたしの大半のお小遣いはニシアの王城に置いてきたし、王城を飛び出してくる時にはベストのポケットに船代ぐらいの少しのお金を持ってきただけなのでお金をあまり持ち合わせてないのであれをダンカで売ってお金に換えようと思いまして」
「「えっ???」」
また、おふたりの声が重なる。
「どうして?」
ジークが隣で慌てている。
皇太子殿下も固まったままだ。
わたしはおふたりが驚かれている理由がわからない。
「????」
これはちゃんと説明が必要なようだ。
「今後、わたしがダンカで宿泊したり、お姉様を救出するのに戦う道具が必要だったりいろいろとお金がいるでしょう。その費用に充てようと思いまして」
「あの箱に入っているものはリアーノの大事な物だよね?売ってもいいの?」
ジークが目を白黒させている。
「お姉様を救出する費用なのに躊躇する暇なんてありませんよ」
わたしはおかしなことを聞くなとクスクスと笑った。
「リアーノ、その費用は私達が払うよ」
皇太子殿下がありがたいお申し出をしてくださる。
「いえいえ、わたしのお姉様の救出ですし、公務と政務ではお金の出所が違うこともこの間のお勤めで学びましたので、ご迷惑をお掛けすることはできません」
うーんとおふたりは唸ってしまった。
でも、この後にわたしが家から持ってきたカード類がすぐに役立つとはこの時、誰も想像していなかったんだけどね。
王都サハの王城に着くと、煌々と城門が照らされているではないか。
いつもとは違う城門の様子に皇太子殿下を思わず見る。
「もちろん、鳩を使って側近に私の帰城を知らせているからね」
澄ました顔が綺麗な皇太子殿下が悪戯っ子のような表情をされた。
なぜだか、どんどんとキーモンさんやアッサムに似てくるのは気のせいだろうか?
気のせいだよね?
そして、荷馬車で堂々と帰城する皇太子殿下って…。
さぞ、門番さんは驚かれたことだろう。
半年前まで毎日通った懐かしい廊下を早足で歩く。
もしかしたら先に出発したアッサムに会えるのではないかと小さな期待をして、灯りが灯り人のいる気配がする思い出の詰まったその部屋の荘厳な扉を引いた。
廊下で歩く音で気づいていたのか、待っていました!と言わんばかりの満面の笑みで迎えられた。
「おかえり!リアーノ!」
ライラさまが駆け寄って来てくださった。
お互いに手を強く握り合って再会を大はしゃぎをしてしまった。
だって、ライラさまとダーリア殿の結婚式以来の再会だ。
私達が落ち着くまで、温かい目で見守っていてくださった皇太子殿下やホーシャック室長、ダーリア殿、そしてジークには感謝でしかない。
「ホーシャック室長、アッサムは?」
皇太子殿下が開口一番に聞いてくださる。
「昼過ぎにこちらにフィリップ様と戻られてすぐにダンカに向かわれました」
「そうか。無事に戻ったんだな。それにしてももうダンカに向かったのか」
「それより皇太子殿下、執務室でおひとりお待ちの方がいらっしゃいます」
ホーシャック室長が困ったような顔をするのを見て、皇太子殿下が面倒くさそうに執務室の方に目を遣る。
執務室の前にふたりほど見たことがない方がおられたが、皇太子殿下はすぐに誰だかわかったようでスタスタと近づいて行かれた。
「陛下はこの中か?」
「皇太子殿下、お疲れ様でした。陛下はこの中でお待ちです」
「わかった」
そのまま、アッサムの執務室に皇太子殿下が入室をされ、しばらく出てこられなかった。
その間はわたしとジークは事務室の面々にニシアであった出来事を報告して、また事務室の面々から火薬についての報告を教えてもらった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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第1章がコミカライズされました。
「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」
まんが王国さんで先行電子配信中。
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作画は実力派の渡部サキ先生です!
レナード殿下&アッサムもジークもめっちゃイケメン
だし、リアーノがこれまためっちゃ可愛い♡のです。
マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。