★小話 王妃視点 大脱出
読んでいただきありがとうございます。
今回は王妃視点。
「お話中に失礼しますね。陛下、いまよろしいですか?」
ダンフォース様と深刻そうにご自分の執務室で話し合っておられるところに遠慮なくズカズカと私はお邪魔をする。
「どうした?」
「先ほど、ターナから報告を受けたので、ダンフォース様と貴方にお知せしておきますわ」
やっぱりどう考えても面白いので、真面目な話をするはずなのに、ついつい顏がニヤけてしまう。
「リアーノが先ほど、ベランダからステファニーの救出のためにセイサラ王国に向かったようですよ」
陛下はしばらく私の言葉が理解出来なかったのか、少し間が空く。
「えっ?ベランダから?あの高さだよね?」
そう!その反応!期待どおり。
やっぱりそうなりますよね。
「そうです。あの高さです」
笑そうになるのを堪えながら答える。
驚く陛下の向かいに座っておられたダンフォース様はわたしの方を向いて含み笑いをされたので、ベランダから脱走したのはダンフォース様の予想通りだったんだろう。
「その…ベランダから出てリアーノは大丈夫だったのか?」
戸惑いながら心配そうな表情を陛下はわたしに向けられる。
「無事ですよ。しかも物凄い速さで地上に着いたようです。ターナ曰く、さながら間諜のようだったと」
「か、間諜?」
「ええ!間諜です」
もう、可笑しくっていまにも吹き出しそう!
わたしがわざわざ秘密の通路をリアーノに教えようと陛下を誘導したのに、物の見事にその努力も水の泡。
こんな面白いことってあります?
陛下はうーんと唸りながら、小さな声で「わかった」とボソリ。
その気持ち、よくわかりますよ。
ステファニーが戻るまで、せめてリアーノだけでもご自分の手元で安全に保護していたかったと。
あわよくば、ステファニーが無事に戻ってきたら家族4人水入らずでこの城で晩餐でも取りたかったですよね。
それは私達の夢でもあり悲願ですから、その残念な気持ちは一緒です。
「ダン叔父さんに育てられるとそうなるんですね」
少し不機嫌そうに陛下がダンフォース様に明らかに八つ当たりをする。
その発言に私は思わずギョッとする。
いくらなんでも不敬ですよ。
ダンフォース様は一瞬、面食らったような顔をされたけど、その次の瞬間、大笑いをされた。
「アマシアで育つと逞しくなりますから」
そして、とてつもなく優しい瞳をされた。
リアーノの今回の「大脱出」がなんの心配も要らないぐらい大丈夫なんだと、ダンフォース様の瞳が物語っている。
リアーノの無茶振りが心配だった私はその瞳を見て安堵した。
「それにしてもこちらの想像以上に動きが早かったですね。両国の未来ある若い者達が知恵を出し合い結託して、リアーノを鮮やかに攫ったことを褒めてやりましょうよ」
ダンフォース様が嬉しそうに目を細められる。
「わかっていたこととはいえ、なんだか腹立たしいのはなぜなんだ?」
陛下が腕を組みながら、ムッとしている。
私には一国の王という顔より、いまはひとりの娘の父の顔に見える。
それを教えてあげたくなるけど、やっぱり面白いから黙っていよう。
「新しい時代はもうそこまで来てますね」
陛下が諦め混じりに一息吐く。
「そうだな。あの子達のその逞しさが眩しいくらいだ」
ダンフォース様が立ち上がり窓際に行かれると、眼下に広がる夕暮れ前の賑やかな城下に目を遣られる。
3人の誰もが言葉にはしないけど、リアーノとステファニーの無事を、そしてこれから始めるステファニーの救出作戦の成功を祈る。
「さあ、私達もまだまだあの子達に負けてはいられませんよ。さっさとこちらの大掃除を済ませましょう」
なんだかんだと言っても、少し寂しそうな大人の男2人を鼓舞して、私もまたステファニーとリアーノがいなくなって気落ちする自分の気持ちを奮い立たせた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回も小話です。
その後からはいよいよ救出編。
やっと…主役、復活笑 たぶん。
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