妖精
読んでんいただき、ありがとうございます。
「リアーノ様、時間は10日間です。必ず10日間でステファニー王女殿下と一緒に帰ってきてくださいね」
「はい。必ず」
わたしは大きく頷く。
アマシアまで3日。
それからダンカまで半日。
みんなにジークのことを知らせて、お姉様を救出して、ニシアに帰ってくる。
全てのミッションをクリアするのは、かなり難しいことであるのはわかっている。
それでも、お姉様の身代わりを放棄してでも、わたしはいま行かなければならないと強く思う。
みんなの命の危機だ。
その中にはアッサムも。
「もうリアーノ様は秘密の通路についてご存知ですよね」
「先ほど、陛下と王妃殿下に教えていただきました」
ターナさんが頷きながら、早足で扉の方に歩いて行かれる。
「では、廊下を見て参ります。誰もいないのを見計らってからリアーノ様は部屋を出られてください。そして秘密の通路に行かれてください」
わたしは慌てて、ターナさんを呼び止める。
「待ってください。秘密の通路を使えば、なにかあったときに陛下たちにご迷惑をおかけしますので、わたしはこちらから行きます」
ベランダの方に歩いて行き、錆び付いた鍵を開けた。
「はっ?」
ターナさんが素っ頓狂な声を上げる。
「こちらの方が早くて、確実かと」
わたしは声を立てずに笑いながら、そのままベランダに出ると、ターナさんが慌ててベランダに駆け寄ってきた。
「落ちたらどうするんですか!!」
「絶対に大丈夫です」
自信満々に微笑む。
冷たい潮風がスッと抜けていく。
眼下に広がるカイカックの街並みや海は、昼下がりの陽を浴びて眩しい。
「ではターナさん、あとをよろしくお願いします」
先ほどターナさんにしてもらったように次はわたしがターナさんの両手を取って、ぎゅっと握った。
呆気にとられるターナさんをそのままに、ベランダの手すりに足を掛けて、そのまま階下のベランダにひらりと飛んだ。
「!!!!!」
声にならない声を上げて、ターナさんが手すりから身を乗り出して、階下に飛んだわたしを心配そうに覗いている。
上を見上げてターナさんに無事を知らせるように小さく手を振り、再び階下のベランダにひらりと飛び降りた。
♢
「はあああぁぁぁ、緊張した」
セイサラ王国の皇太子殿下の泊まられている客室に入り扉を閉めるや否や、俺は扉の前でしゃがみ込んだ。
「ジーク、お疲れ様」
他人事だと思って、皇太子殿下は可笑そうにくすくすと笑いながら、俺に手を差し伸べてくださる。
皇太子殿下の手をありがたく取り、少し震える足でなんとか立った。
「俺、絶対にリアーノに嫌われましたよ」
少し涙目になりながら、皇太子殿下に訴える。
「きっと大丈夫ですよ」
そう言いながら、まだ皇太子殿下はくすくすと笑っておられる。
「アッサムはなんて酷い作戦を思いつくんだ。事もあろうか、それを俺にさせるなんて!あいつへの貸しがまた増えたからな!」
喚く俺が面白いのだろう。皇太子殿下はまだ笑っておられる。
人の気も知らないで。
「ジークはアッサムにあとからしっかりと借りを返してもらってくださいね。そろそろ我々も行かないと、ここまでして間に合わなければ最悪なことになりますよ」
「そうですね。ここまでしたんです。急ぎましょう」
俺と皇太子殿下は慌てて、客室を後にする。
「どっちに?」
皇太子殿下が廊下を早歩きしながら、小声で楽しそうに聞いて来られる。
俺はさっきのリアーノのこの世の終わりのような絶望した顔が脳裏に焼きついていて、少しも楽しくない。
(それに…)
「どっちだと思いますか?」
少し皇太子殿下に意地悪をしたくなり、質問を質問で返す。
「秘密の通路か?」
聞こえるか聞こえないかの小声の皇太子殿下の答えに、俺は無言で首を横に振る。
「アッサムの話によりますと、王城の外で待っていると妖精が降りてくるそうです」
「妖精…ねぇ」
皇太子殿下は少し首を傾げておられる。
俺はその妖精の行動に少し心当たりがあるが、いまはまだ黙っておこう。
とりあえず、アッサムに指定された場所にふたりで急いだ。
読んでいただき、ありがとうございます♪
★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!
作者のモチベーションが上がります。
☆お知らせ☆
第1章がコミカライズされました。
「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」
まんが王国さんで先行配信中。
各電子書籍さんでも配信中!
そして、単行本版2巻が出ました!
作画は実力派の渡部サキ先生!
主人公達以外のモブキャラもすごく素敵なんです!
どの方も味があって、お話しに広がりと深さをもたらしてくれる素晴らしいキャラ達!
ぜひ一度、チェックしてみてくださいね。
マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。