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黒い笑顔と決意

読んでいただき、ありがとうございます。

 ふたりの間にカイカックの城下の喧騒が聞こえてきそうなぐらいの静かな沈黙が続く。

「嫌だとかそうじゃないの。ジークはわたしにいまはそういう気持ちはないでしょう!」

 ジークから甘い雰囲気を一切感じないのに、どうして…。


 ジークは少し視線を外して、口角を上げた。


「ジークは…貴方(あなた)はみんなに一体なにをしたの?」

「俺はなにもしてないよ」

 ジークがそんな言葉を吐きながらも黒い笑みを浮かべている。


「…すべて聞かなかったことにしたい」

 小さく呟いた。


 本心だった。

 いままでジークには本当にいろいろと助けられていたし、安心して信用をしていたし、友達だと思っていた。

 わたしはジークの優しさに甘えていたんだ。

 アッサムだって最初の頃は訝しがっていたのに、いつの間にか信用をおける仲間だと認識していたに違いない。


「リアーノはここにいなよ。それが一番安全だよ」

「…………」


 ジークがソファから立ち上がった。

 わたしは木偶の坊のように立ち尽くしたままだ。


「じゃ、リアーノ。また明日ね」

 ジークは悪びれた様子もなく、むしろ楽しそうな様子で笑顔だ。黒い笑顔だけど。


「明日から執務を手伝うよ。俺も兄さんの仕事を覚えないとな」

 そんなことを言いながら、ジークが機嫌良さそうに扉に向かって歩いて行き、扉を開けるとターナさんが怖い顔で立っていた。


「ジークフリート様、申し訳ございません。全て聞かせていただきました」

「そうだろうと思ったよ」

 ジークは少しも慌てる素振りをしない。

 さも予想していたかのようだ。

 ジークのその悪い顔がもっと悪くなった。

 

 さすがのターナーさんもそんなジークに圧倒されている。

 その迫力に押されるようにターナさんはジークに道を譲った。


「ジーク!!」

 さっさと出て行くジークを呼び止めようと名前を呼ぶが、こちらを振り向くことない。

 ジークは右手を挙げると出て行ってしまった。



(ジークが…ジークがこの一連の事件を仕組んだとして、お姉様やフィリップ様、アッサムにおじいさま、みんなの身に危険が…)


 無意識に近い状態でボフッと力なくソファに座った。

 

 みんなに危険を知らせにセイサラ王国まで行かなければ。

 きっと、わたししか知らない事実。

 確証を得るまではジークの実家、フォンデル家にも関わる重大なことだから、ニシアの陛下にも王妃様にも話さない方が良いだろう。


『迷ったら立場の違う5人に相談』

 アッサムと合言葉のようにしている言葉がある。

 いまはこれは封印だ。

 相談は誰にもしない。


 あまりにもの衝撃的なジークの発言に、ずっとずっと、頭の中でグルグルと考える。一度は停止した思考を一生懸命に再び働かせる。


「リアーノ様、大丈夫ですか?」

 わたしが思い悩んでいる姿が痛々しくて、()(たま)れなかったんだろう。ターナさんが不安そうにわたしに声をかけてくれ、ハッと我に返った。

 そして、慌てて顔を上げる。


「リアーノ様、ここはわたしがなんとかします。とにかくセイサラへ行かれてください」


 ターナさんは青い顔をしながら、悲痛な表情でわたしに申し出てくれる。


「でも、それはターナさんに大変な迷惑をお掛けします」

 ターナさんの気持ちはうれしいし、ありがたいけど、わたしがステファニー王女殿下の身代わりを放棄することは出来ない。


 ターナさんがめいいっぱい首を横に振られた。

「私は大丈夫です。がんばっても10日間程ですが、この間のようにステファニー様がご病気だと誤魔化せる自信はあります」

 ターナさんが、キリッとした顔をされたかと思うと、目を細め笑顔になって、わたしの両手をぎゅっと握ってくださった。


「本当はいますぐにでも行かれたいんでしょう?」

 わたしは自然と無言で深く頷いてしまった。


「この役目はリアーノ様にしか出来ません。さぁ、すぐに準備しましょう。いまなら夕暮れまでには時間があります。出港に間に合う船があるかも知れませんよ!」

 ターナさんがわたしの欲しかった言葉で背中を押してくれる。


「ターナさん、ありがとうございます。そうですよね!ここで悩んでヤキモキしているのはわたしらしくないわ。セイサラに行きます」

 わたしは港町の食堂の娘。

 船乗りに顔見知りは多い。

 いまからなら、なんとかなるかも知れない。


「ジーク、食堂の娘の底力を舐めてはいけません。覚悟してください」

 誰にも聞こえないように、そっと呟く。


 そして、急いで出発の準備を始めた。

 その気になれば、準備なんて10分もあれば十分だった。


「ターナさん、鞄や服は預かってもらって良いですか?」

「もちろんですよ」


 言葉どおりの身ひとつでセイサラに向かう。

 ニシアに来た時に着ていたアッサムの一丁羅のベストとズボンのお下がりの服を着て、キーモンさんが用意してくれた金髪のカツラを被り、すこしのお金をポケットに突っ込むと、あっという間にどこからどう見ても少年になった。


読んでいただき、ありがとうございます。


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが大変上がります。



☆お知らせ☆

第1章がコミカライズされました。

「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」

まんが王国さんで先行配信!他電子書籍さんで電子配信中。

作画は実力派の渡部サキ先生!

アッサムが…リアーノが…ジークが…

マンガとなって、生き生きと活躍しています!

とっても素敵なんです!

ぜひ、マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。

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