裏切り
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無事にご来賓の方々のお見送りも終わり、残すところはセイサラ王国の皇太子殿下のみとなった。
同盟国へ豊穣の女神の件と火薬の盗難事件の追加説明と会議のために、最後まで残ることになってしまった皇太子殿下のいらっしゃる客室まで陛下と王妃殿下と一緒にお礼のご挨拶に行くことになった。
「ステファニーに見せたいものがあるの。今日はあの通路を使いましょう」
王妃殿下が陛下に目配せをした。
陛下は王妃殿下が言ったことがなにを指しているのか、すぐにわかったようだった。
すぐに人払いをされて、3人だけになるとしばらく廊下を歩き、階段を随分と降りると、カーテンで隠されるようにあった小さな扉を開けて中に入って行かれた。
その扉の向こうは、手彫りの狭く暗いトンネルになっていた。
「リアーノ、これは王族とごく一部の関係者しか知らない秘密の通路だ。城の外に繋がっている。なにかあった時はこの扉を使って王城から脱出しなさい」
陛下が少しだけ難しい顔をしている横で、王妃殿下は微笑まれた。
「リアーノが通るのは2回目ね」
王妃殿下はうれしそうだ。
「2回目?」
(初めてだと思うけど…)
この数日になにかあったかな?と思い出そうとして…まさかと思った。
「も、もしかして、わたしは生まれてすぐにこの通路から…?」
陛下も王妃殿下も優しく微笑まれると、少し寂しそうに深く何度も頷かれた。
「この通路からリアーノはセイサラ王国へ行ったのよ」
少し王妃殿下の声が震えた。
「…そうだったのですね」
おじいさまから、その時の話は聞いた。
でも生まれてすぐのことだったし、覚えているはずもなかったから、話を聞いた時は実感はなかった。
でも改めて、この場所を目の当たりにすると不思議な感じだ。
手彫りをされた薄暗い狭いトンネルの壁に触れてみるとひんやりとしていた。
「本当だったんだ…」
王妃殿下はわたしを抱き寄せると、ぎゅっと抱きしめてくださった。
それから、皇太子殿下にお礼とご挨拶をさせていただき、これで全てのご挨拶が終了となった。
皇太子殿下のお見送りは、皇太子殿下はいまからまだ人と会う予定があるらしく、好きなタイミングで出発するからと固辞をされた。
「王女殿下」とは忙しいもので、挨拶という「公務」が終わってからも、次は執務室での仕事が待っている。
わたしはお姉様の身代わりなので、身代わりは勝手に決裁をしたりはしないが、それを陛下や王妃殿下に内々でお願いをするために書類を整えたり、届く手紙を開封して記録をつけたりと、いつお姉様が戻ってきてもすぐに仕事に取り掛かれるように準備しておく必要がある。
お姉様の執務室でターナーさんと黙々と書類と睨めっこをしていると、そこにジークが訪ねてきた。
「昨夜は夜遅くまでだったし、ジークも疲れたでしょう。お疲れ様です」
ジークに労いの声を掛けながら、お姉様の執務室にあるソファーにジークを促す。
ターナーさんはお茶の準備をするために出て行かれ、ジークとふたりきりになった。
ジークはターナーさんが扉を閉めて完全に出て行くのを確認すると、恐ろしいことを言い始めた。
「やっと…みんな、行ったね」
ジークの顔がニヤッと歪む。
それはいままで見たことがないような、黒いゾッとするような笑みだった。
「ジーク?」
「やっと、リアーノをニシアのこの場所に連れてくることが出来たよ」
「えっ?」
思わず身構える。
「一連の事件は全て俺が仕組んだことだとしたら、リアーノはどうする?」
ジークの瞳が真剣だ。
「ジーク、なにを言っているの?」
「アッサムも馬鹿だよな。俺を信じてリアーノを託して行くなんて」
目の前にいるのが、あのいつものジークと同一人物と思えない。
それは悪魔にでも取り憑かれた別人なのではないかとさえ、思ってしまう。
「ねぇ、リアーノ。簡単な話だよ。このままステファニー王女殿下は戻らず、救出に行った兄さんも戻ることがなく、ステファニー王女殿下の身代わりであるリアーノがこのままここにステファニー王女殿下の身代わりとして、留まらなければならないとして、一番得をするのは誰だと考える?」
(それは…)
「ジーク、貴方変よ!」
「変なのは周りだよ。誰が1番得をするか、ちょっと考えればわかるのにね。リアーノはもうわかったんだろう。1番得をするのは「俺」だよ。それなのに誰も俺を疑いもしない。なんて馬鹿なんだ」
ジークはそう言うと下を向いて笑いを堪えながらも、クックックッと可笑そうに笑う声が漏れている。
そして、わたしを見据えた。
「俺の作戦どおり上手くいくと仮定して、このままだとリアーノはステファニー王女殿下として、兄のスペアである俺と結婚することになるんだろうね」
「ジーク、自分でなにを言っているのかわかっているの!」
思わず、立ち上がった。
「リアーノは俺だと嫌?」
縋るような瞳で見てくるジークになにも言えなくなった。
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