特殊部隊の長
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その時、扉がノックされた。
「失礼します」と緊張した女性の声が、扉の向こうから聞こえる。
誰もが警戒をして黙り、静かな沈黙で室内は緊張に包まれた。
ニシアの陛下が「どうぞ」と声を掛けると扉が開いて、待ちに待った方が満面の笑みで入室してきた。
「みんな難しい顔をされていますね」
ぐるりと見回して、誰がいるのか確認してからひとりで面白そうに微笑む。
「おじいさま!」
「リアーノも元気そうだな」
ダン爺が顔をくしゃとして愛おしそうにリアーノを見つめる。
ダン爺の後に続いて、王妃殿下も入室をされた。
リアーノに付いている侍女も一緒だ。
「これで全員揃いましたね」
俺の一声で唖然とダン爺を見ていたみんなが我に返る。
「ダン爺、ここまでありがとうございます」
「アッサムに置いて行かれて俺は悲しかったぞ」
俺の方を見て、悪そうな顔でダン爺は笑う。
「舞踏会には間に合ったか?」
「もちろんです。兄貴と俺ですよ」
ダン爺は「そうだった」と大きな声で笑いながら「それにしてもすごい面子だな」と呟きながら席に着いた。
ひと通り、出揃った情報を報告するとダン爺はひとつ頷き、隣の席のニシアの陛下の手を握った。
「辛い時間はさっさと終わりにするぞ。ステファニー王女殿下の居場所だと思われるところが判明した」
みんなが息を呑む。
フィリップ殿がグッと身を乗り出した。
「ダン様、それはどこですか?」
フィリップ殿は今すぐにでも飛び出して行きかねない雰囲気だ。
「セイサラ王国のダンカという街だ」
ダン爺はフィリップ殿をしっかりと見て答える。
ダンカ!
セイサラ王国の王都サハからは目と鼻の先。すぐ隣の都市だ。
王都サハは国家機能が集中していることもあって整然とした街並みであるが、ダンカは人も多く、商店や市場が密集し、小さな工房と住宅が混在する雑然とした庶民の街だ。
「ありがとうございます。ダン様はその情報をどこから…」
「これは少し厄介な事件になりそうだ。セイサラ王国の国営工場での火薬の盗難事件とその関連で鉱山の火薬の入出庫の数のことは皇太子殿下から皆が聞き及んでいると思うが、アッサムの指示で引き続き鉱山を見張らせていた者から連絡があった」
皆がダン爺の次の言葉を固唾を呑んで待つ。
「調査に出向いた文官が帰路に着いた途端に怪しい荷馬車が動いたそうだ。まぁ、優秀な我らの部隊の者だ。第六感で勘づいたらしい。尾行をするとダンカにたどり着いたとのことだ。それでだ。アッサムから無理矢理に引き継がされたアマシアでの不審船の件だが…」
ダン爺が俺をひと睨みする。
確かにリアーノを心配してニシアに行こうとするダン爺を引き留めて、お願いをしたのは俺だ。
「アッサム。アマシアからどこに行ったと思う?」
「まさか…ダンカですか?」
「そうだ。ダンカだ」
ダン爺はふうとひと息吐く。
「話はこうだ。豊穣の女神の復活を望む者か団体が火薬という武器と幻覚草で思考力を失い簡単に使える「人」を手に入れて、各国に同時多発的にクーデターまたはテロリズムを起こそうとしているということだ」
誰もが事の重大さに微動だにしない。
ダン爺は難しい顔をしながら、皆を見回した。
「そして、ここからは想像でしかない。ステファニー王女殿下はきっとそこにおられる」
「で…では、すぐに!」
フィリップ殿がガタッと席を立たれる。
「その通りだな。さて、ここで確認だ。この件はニシア国の姫と国民の誘拐、セイサラ王国内での重大盗難事件と両国間での事件となる。この案件は特殊部隊の長の私が引き取らせて頂くが、陛下も皇太子殿下もそれでご了承していただけますかな?」
ダン爺は普段、気難しい料理人といった雰囲気なのに、いまはここの誰よりも威厳に満ちたその雰囲気はやはりこの人は王族なんだと思わされる。
「ダンフォース様、よろしくお願いします。この話はセイサラの父には?」
「今ごろ、陛下が水面下で討伐に向けて、ダンカに行く準備の指揮をされていますよ」
「えっ?」
ダン爺が可笑そうに笑っている。
皇太子殿下が俺に戸惑いの視線を投げてくる。
「陛下…父が、私が王都サハを発つときに私が戻るまでこの件は引き受けるとおっしゃってくださったので間違いないかと」
「父が…ねぇ。意外に意気揚々と指揮を執っていそうだな」
皇太子殿下がふっと笑われる。
「ダンフォース叔父様、私からもお願い申し上げます。私はステファニーの救出に赴くことができません。ステファニーをよろしく頼みます」
ダン爺が深く頷かれる。
「特殊部隊の長として確と受け止めさせて頂きます」
ダン爺が席を立ち、深々と礼をされた。
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