円卓会議2
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「今朝はリアーノの提案で古い教会を中心にステファニー王女殿下の足取りを探していました。そしてあるひとつの古い教会に辿り着いたのです。ステファニー王女殿下と同じような年齢と背格好の若い女性で髪の色や瞳の色が一致する者が足繁く通っていたという証言を得ましたよ」
ニシアの陛下とフィリップ殿が顔を見合わせる。
ジークはさらに言葉を続ける。
「その古い教会は豊穣の女神の絵が飾られていたそうです」
皆の眼が見開く。
「ステファニーは居たのか?」
フィリップ殿の質問にジークが顔をしかめる。
「いえ、いまはおられる様子はありませんでした」
「そうか…」
フィリップ殿が暗い表情に戻る。
「ただ、その者が言うにはステファニー王女殿下らしき若い女に救われたと」
「救われた?どういうことだ?」
フィリップ殿が身を乗り出して聞く。
「その教会では司教の講話の後に菓子や茶が振舞われていたそうなんですが、それを口にするとその後は1日中、非常に良い気分で過ごせるようになるらしいんです。それを求めてまた司教の講話に参加し、その茶や菓子を口にする。そのうち、それだけでは満足が出来なくなり、直接購入を司教に希望するようになったらしいのですが、それを見ていたその若い女性に講話の後の茶や菓子には幻覚草が入っているから口にするなと助言をされ、この薬を渡されたそうです」
「ジーク、この薬は?」
「中和剤でした」
フィリップ殿がジークから薬を受け取り、薬をじっと見つめる。
「そうか… カイカックでも豊穣の女神を布教する者が…それに幻覚草。ステファニーはいち早くそれに気づいていたんだな。そして薄々、身の危険を感じていたステファニーはリアーノ嬢に叙事詩の本とメッセージを託した…と」
「おそらく、そうだと思われます。なんとかされようとした矢先に攫われたと推測されます」
「なぜ、ジークは「攫われた」と?身分も明かしていなければ、普通はこの状況下なら殺されていてもおかしくないだろう」
フィリップ殿の表情がこちらから見ていても痛々しほどに辛そうだ。
ずっと黙って聞いているニシアの陛下も同様だ。
でも、俺もステファニー王女殿下が殺されたとは考えていない。
ジークが俺の方を目配せして頷いた。
次は俺の番だ。
「理由は「船」ですよ。リアーノなら心当たりがあるんじゃないか?」
フィリップ殿と同じような辛そうな表情で聞いていたリアーノに俺は話を振る。
「えっ?船?」
そう言うと少し間があってから、気づいたようだ。
「アマシアの入江で見たあの帆船ね!」
「そうだ。あの帆船だよ。兄貴…キーモンが調べていた」
「さすが、キーモンさんね!」
リアーノの表情が急に明るくなる。
「アマシアの人間はあまり使わない入江に怪しい帆船がいたのですが、皆が知っているキーモンも怪しいと感じ、ひと足先に調べていました」
「キーモン殿はなんと?」
皇太子殿下がそれは聞いてないぞと言わんばかりの凄みで見てくる。
「キーモンは俺と合流する直前まで、その怪しい船をアマシアまで追跡していました。積荷は「女と子ども」と中身は不明ですが木箱であることまでは確認できたようです」
「積荷が「女と子ども」だと?」
「ええ、「積荷」がです」
「最低な奴らだっ!」
皇太子殿下の吐き捨てるように言うとその場の温度が急に下がるぐらいの冷酷な雰囲気を出す。
俺の実の兄の初めて見る、その冷酷な表情に圧倒されそうになる。
「アッサム、積荷の様子は?」
「布で目隠しをされていたようです」
「そうか。アッサムはステファニー王女殿下もそいつらに連れ去られたと考えているんだな」
「その通りです」
「もちろん…だよな」
皇太子殿下がそれは悪い顔をする。
「もちろんです。追跡させています」
皇太子殿下が満足気に頷く。
セイサラ王国にステファニー王女殿下が連れ去られた可能性が出てきたいま、ニシアの陛下もフィリップ殿も手出しが出来なくなる。
こちらに主導権がある状況となった。