円卓会議1
読んで頂きありがとうございます
長くなるので分けています。
セイサラ王国にある鉱山のひとつで、鉱山の麓の街道脇でのこと。
ふたりの者が物陰に隠れながら、じっと街道を見ている。
「鉱山の出入り口を見張っていて良かった。文官の調査が終わったら何者かが動き始めるというアッサムの推測どおりだな」
「このまま、あの者たちを追跡するぞ。拠点を見つけて早くダン爺に知らせないとな」
昼間の往来の多い街道で鉱山の出入り口から出てきた荷馬車が一般市民に紛れている「特殊部隊」の目の前をそれとは知らずに通り抜けて行く。
荷台の物は布に覆われていて、何であるかはわからない。
「他の鉱山にいる仲間にも「鳩」で知らせなければ」
「それにしても巧妙な手口だな。この往来の多さに紛れるなんて。毎日、見張っていた俺たちの目は誤魔化されないけどな」
♢
「フィリップ殿、お疲れのところなのに時間を作って頂き申し訳ないです」
「アッサム殿下もニシアに来られるまで休まれてないでしょう」
いま、俺は舞踏会後にセッティングしてもらったニシアとセイサラの面々の緊急の会議待ちだ。
フィリップ殿の言った通りだ。
ここに着くまで休んでいないし、そんな気にもならなかった。
王都サハを飛び出す直前に兄貴に「鳩」で連絡を取った。
偶然にもアマシア付近にいた兄貴の船に乗ることができ、兄貴と俺で操舵を交代しながら、休むことなくたった1日でカイカックに来ることが出来た。
最速だったと言っても過言ではない。
俺の鬼気迫る迫力に兄貴は苦笑いしながら、無理をしてくれたと思う。
兄貴はなんだかんだと俺に甘い。
「私は大丈夫ですよ」
お互いが疲れを隠しながらも微笑み、会話をする。
フィリップ殿の方がどう考えても大変だったろうにこちらに気遣いを向けてくださる。
先ほどの舞踏会では挨拶を交わしただけだったが、ゆっくりと面と向かって話をすると、柔らかな物腰の中にどっしりとした意志を感じる。
想像通りの方だ。
この方が明朗快活なステファニー王女殿下の王配になられる方か。
ステファニー王女殿下を懐深く、大きく包み込むようにいままで守られてきたのだろう。
そんなおふたりはお似合いで、弟であるジークとは正反対とは言わないが違うタイプの男だ。
どちらかというとセイサラ王国の皇太子殿下と同じように長男気質なのだろう。
皇太子殿下も一見は澄ましていて綺麗で、優しそうに見えるが揺るがない信念を内側に秘めている。
フィリップ殿はステファニー王女殿下に扮したリアーノが体調を理由に王妃殿下と早目に退出した後、陛下と舞踏会を無事に仕切られ、それを終えられた直後なのに疲れた顔をひとつせず、涼しい顔で円卓を囲む席に着いておられる。
おそらく舞踏会からその足で直ぐにこちらに向かわれたのだろう。
服装もそのままだ。
いまからセイサラ王国の皇太子殿下と俺、ニシア国から陛下とフィリップ殿、そして情報を掴んだジーク、それにステファニー王女殿下つまりリアーノで隠された部屋で情報共有だ。
良い話での話し合いではないので狭い部屋では空気が重く感じる。
ニシア国の陛下を最後に皆が円卓に揃った。
「まずはアッサムが急ぎニシアに来た理由から報告させて頂きます」
皇太子殿下が俺の方を見て、目配せをする。
「報告させて頂きます。この絵をご存知ですか?」
俺が円卓の中心に絵が描かれた紙を置くと、皆の視線が一斉に美しい豊穣の女神が描かれているその紙に集まる。
「豊穣の女神だな」
ニシア国の陛下が即答される。
さすがは王だ。よくご存知である。
「そうです。これが我が国の王都サハでいま商品を包む紙にしたり、お釣りを渡すタイミングで粗品として渡し、同時多発的に大量に配られています」
誰もが息を呑む。
それだけでここにいる全員が宗教戦争の知識があることがわかる。
「宗教戦争の発端となった豊穣の女神ですよね。セイサラではこれはサハだけですか?」
フィリップ殿が前のめりで質問される。
「いいえ。こちらに来る前にアマシアを通ったのですがアマシアも同じであることを確認しました」
リアーノが心配そうな表情で俺を見る。
俺はリアーノに向けて(いますぐの心配はない)と首を横に小さく振る。
「この状況がこのカイカックでも確認されました。ジークが説明してくれます」
皆が一斉にジークを見ると、ジークはやっと自分に順番が回って来たと言わんばかりに瞳を爛々とさせながら、ニヤリと笑った。
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