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身代わりの景色

読んでいただきありがとうございます。

 黒を基調とするアッサムの式服と白を基調としたジークの式服が素晴らしく対比していて、麗しいふたりが並んで歩くと、とんでもない迫力で目立つ。

 ふたりは会場の人々の視線を一身に浴びていることを露ほども気にせず、真っ直ぐにこちらに向かって歩いてきた。


 わたしの胸もドクドクと早打つ。

 アッサムを一目見れたうれしさでいまにも溢れそうな涙を堪えることと、決してこの瞳にアッサムへの愛を映してはいけない緊張感とで。


 まずは嬉しそうに皇太子殿下がアッサムに声をかけられた。

「アッサム、セイサラからよく舞踏会に間に合うように来れたな」

「はい、偶然にも優秀な船長の船に乗れましたので」

「おおよそ誰の船なのか、見当はつくよ」

 皇太子殿下が満面の笑みだ。


 そして、ジークの方を見られる。

「ジーク、半年ぶりだな」

「ご無沙汰しております」


 ふたりの一挙一動を逃すまいと会場のご令嬢達が怖いぐらいのすごい熱視線を送っている。

 

 アッサムがフィリップ様の正面に向き直ると姿勢を正した。

「フィリップ殿、ステファニー王女殿下、この度のお祝いの舞踏会に遅れましたこと、お詫び申し上げます」

「アッサム殿下はお忙しいと伺っておりましたのに来ていただけるとは…遠いところ、ありがとうございます」


 わたしはアッサムと挨拶を交わすフィリップ様の隣で震える手でドレスをぎゅっと握りしめながら、お姉様に負けないように優雅で美しく見えるようにゆっくりカーテシーをする。

 

「ステファニー王女殿下は相変わらずお美しいですね」

 ジークがわたしに「リアーノがんばっているね」とでも言いたげな意味深な微笑みを向けてくる。


「兄が用意したドレスだと聞いております。兄の独占欲に満ちていますね」

 ジークが屈託なく笑う。

「わたしは全身にフィリップ様のお色を纏えて幸せですよ」

 そう答えると、ジークがなにか言いたそうな表情を一瞬したがすぐに笑顔に戻った。


 (そうだったんだ。わたしはてっきりお姉様自身がこのドレスを選んだのだと思っていたけど、フィリップ様がお姉様のために用意をされたドレスだったんだ!全身がフィリップ様のお色。フィリップ様のお姉様への愛がどんなに重いものなのかがよくわかったわ)


 思わずフィリップ様の方を見上げて、(フィリップ様、お姉様への愛が重すぎますよ)微笑んでしまう。

 フィリップ様が赤面されながら、恥ずかしそうにわたしのドレスに視線を落とされた。


 こんなやり取りだけど、他人には仲睦まじいフィリップ様とお姉様に見えたかな。

 それなら良いのだけど。


 

 しばらく、他の王族や貴族達にフィリップ様と一緒に挨拶を交わしていると、ダンスの時間となった。

 昨夕、フィリップ様に情報を伝えたいだけに1曲だけ練習をしたが、その時と同じようにフィリップ様にエスコートをしていただきホールの中心へと行く。


 わたしはしっかりお姉様に見えるように完璧に踊らなければならない。

 緊張をしているわたしにフィリップ様が耳元で「大丈夫ですよ」と優しく囁いてくださり、お互いの瞳と瞳で(さぁ!今日一番の見せ所ですね)と会話をする。

 わたし達の用意できたタイミングを見計らってダンス曲が流れ出した。


 アッサムがわたし達のダンスを見ているのがわかった。

 手を伸ばせば、声を出せば、アッサムに届く距離にいるのにいまは1番遠い。

 ステファニー王女殿下の身代わりとはいえ、アッサムの目の前で他の男性にうれしそうに微笑みながら、手を取らなければいけない切なさを初めて知った。



 そしていま、初めて身代わりの怖さも知った。

 もしこのままお姉様が戻らなければ、わたしはいつ「リアーノ」に戻れるのだろう。


 アッサムはレナード殿下の身代わりを何年もしながらずっとこんな自分が自分でなくなるような感覚を、運命に翻弄される悔しさを持っていたのではないだろうか。

 同じように身代わりをして初めて見えたアッサムが見たであろう景色。





 リアーノが目の前にいるのに抱きしめることも触れることも許されない。

 瞳で語り合うことさえ許されない。

 いまは他人の婚約者のリアーノ。

 リアーノが他の男と見つめ合う姿を見る度に込み上げる激情をグッと堪える。


 今日のドレス姿のリアーノはいつにも増して綺麗だ。

 リアーノが身に纏っているドレスがリアーノではなくステファニー王女殿下に向けられた独占欲の塊のようなドレスだとわかっているのに、リアーノがその色を纏っているだけで嫉妬心で褒める言葉さえ出てこない。


 俺だって、リアーノを着飾りたい。

 俺の独占欲にまみれたドレスを着せて、リアーノの手を取って見つめ合いながらダンスを踊りたい。


 ステファニー王女殿下の身代わりをしているリアーノを一目見たら、こんな気持ちになると頭のどこかでわかっていても、やっぱり一目でも会いたかった。

 リアーノに「大丈夫だ」と声を掛けてやりたかった。



「アッサム殿下、嫉妬ですごい顔をしていますよ」

 ジークが声を落として話しかけてきたので、慌てて自分の顔を手で覆う。


「あのドレス、兄様と俺は同じ瞳の色なので俺の色でもあるんですよ」

 ジークがわざと煽ってくる。

 それを聞いてジークを睨みつけた。

「おおっ!怖!」

 戯けた表情のジークだが、複雑そうな表情を少し浮かべた。


 ホールの中心で演技だとわかっていても楽しそうに踊るふたりを見て、早く終われば良いのにと心の中で毒づく。



「アッサムにジーク、なんて顔をしているんだ」

 俺達のやり取りの一部始終を横で見ていた皇太子殿下が呆れ顔だ。

 

「アッサム。本当の用事はなんだ?ステファニー王女殿下の泣きそうな顔をただ見に来た訳じゃないだろう」

 ニヤッと皇太子殿下がしてくる。

 さすが、だ。


「ええ、皇太子殿下その通りです。俺もジークもそしてアマシアの兄貴からも有力な情報がありますよ」

 そう言うと、皇太子殿下がふふっと笑った。


「相変わらず、アッサムとジークは仲が良いんだね。それに「兄貴」か。少し妬けるな」

「?」

 皇太子殿下が少し苦笑いしている。


「ではフィリップにさっさとダンスを終わらせてもらって作戦会議だな。その前にこれをなんとかしてくれよ」

 皇太子殿下が少し離れた先の層になった厚いドレスの壁に目をやる。

 ご令嬢達が遠巻きにこちらを見ている。


「珍獣になった気分だ」

「アッサム、いい加減これに慣れろよ」

「ほんと、無理だから」


 俺とジークのやり取りに皇太子殿下がクスクス笑う。


 独身男性3人が壁際でコソコソと話しているだけなのに目立つなんて。


 腹の中は真っ黒なのに澄ました顔が冷たく綺麗な皇太子殿下、立っているだけで華があるジーク、コイツらの横に立ちたくないと俺は真剣に思った。


読んでいただき、ありがとうございます。


★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の評価をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションが上がります。



☆お知らせ☆

第1章がコミカライズされました。

「幼馴染は隣国の殿下!?〜訳アリな2人の王都事件簿〜」

まんが王国さん他で電子配信中。毎月15日更新!

作画は実力派の渡部サキ先生!

リアーノの恋心にきゅんとしますよ。

マンガも原作もお楽しみ頂ければ幸いです。

ぜひ一度、見にいってくださいね。

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