王妃と押し花
読んでいただきありがとうございます。
ターナさんの早い仕事っぷりで、直ぐにでも王妃様、つまり母に面会ができることになった。
王族って、こう言うところが大変だなと思ってしまう。
たとえ家族であっても会うためだけなのに「先触れ」を出さないといけない。
わたしはアマシアでおじいさまやおばあさまと話したい時は、食堂に降りたらふたりにすぐに会えた。
それが当たり前だったけど、それはとても貴重なことで幸せなことだったのだと今になって改めて思う。
そして、いまはこれがお姉様の日常だ。お姉様の身代わりをして初めて気づく「王族」として暮らす大変さ。
無事に会えたら、お姉様の抱える大変さをゆっくり聞いてみたい。身代わりをしてわたしが気づいたこともお姉様に聞いて欲しい。
話したいことがどんどんと膨らんでいく。
だから、1秒でも早くお姉様の無事な姿を見たいと願わずにはいられない。
王妃様の私室にターナさんと向かう。
早く王妃様に会って、赤い押し花のことを確認したいと逸る気持ちを抑えてゆっくり歩こうとするが、どうしても急ぎ足になってしまう。
部屋では王妃様が人払いをして待っていてくれた。
「リアーノから会いたいなんて、うれしすぎるわ」
すごくうれしそうに駆け寄ってきて微笑んでいただく。そう言ってもらえるわたしはとても幸せ者だ。
「お姉様のことです」
誰が聞いているのか、わからない王城。
その耳が天井裏にあってもおかしくない。
アッサムはお姉様の行方不明の理由がわからない今は「絶対に周りに気を許すな」と話していた。それを踏まえて声を落として、王妃様の耳元で囁くように話す。
「わかったわ。こちらに」
通されたのは寝室だった。
「ここの部屋は少しだけ壁が厚いの。リアーノ、なにか気づいたの?」
「はい。少し前にお姉様から叙事詩の本が送られてきたのですが、その時にこの栞がとあるページに挟まっていたのです」
ドレスのポケットに隠し持ってきた赤い花の栞をお見せする。
「リコリスの押し花ね」
「この押し花に心当たりはありませんか?」
そう聞くと王妃様は少し考え出した。
その間に寝室を見回すと、壁に押し花を絵画のようにした創作作品がいくつか額に入れられて飾られているのが目に入った。
「あの押し花の作品は王妃様が?」
「ええ、そうよ。生けられた花がすぐに捨てられるのが勿体ないから趣味で押し花を始めたの。最近は孤児院のバザーにも出しているの。いま、リコリスの押し花をどこに飾ったのかを思い出そうと…少し待って」
王妃様はそれからすぐに思い出したようだった。
「リアーノもターナも一緒に来て」
そう言うと王妃様は私室を出て、早い足取りで無言でどこかを目指している。
連れて来られたのは人気が全くない、たくさんの肖像画が並ぶ廊下の角だった。
「やっぱり…」
王妃様が呟いた。
廊下の角のコーナーテーブルに小さな額が置かれている。
「どうやらここから取ったようね」
見せられた小さな額に黄色い押し花が少しだけ入っていた。
どう見ても不完全な状態だ。
「ここに赤いリコリスの押し花を飾られていたのですか?」
「そうよ。赤いリコリスが2輪」
栞に入っていた赤いリコリスの押し花と数も合う。
お姉様は意図的にここから赤いリコリスの押し花を抜いたのだ。
「あの方は花言葉には詳しいのですか?」
どこで誰が聞いているかわからない。
名前を口にすることは憚れるし、会話も出来るだけ短く小声に。
「教養として(花言葉を)学ぶから人並みには(理解しているはずよ)」
そうすれば、おのずと答えは出る。
「(わたしに)何かを伝えたい(からここからリコリスの押し花を抜き取った)ということですね」
3人は顔を見合わせた。
(古い教会… 独立…宗教戦争)
(城下に行くことが増えたお姉様)
「王妃様、ありがとうございます。次になにをすれば良いか、先が見えました」
「それは良かったわ」
そして、そっと王妃様に耳打ちをする。
理解した王妃様の瞳に希望の灯が点る。
「ターナ、フィリップ殿のところに急いで」
王妃様はすぐにターナさんに小声で指示を出した。
読んでいただき、ありがとうございました。
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