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専属侍女

「リアーノの王城編」です。

 一緒に王城に来たジークとは途中で別れて、お姉様の専属の侍女さんに秘密裏に通された部屋はステファニーお姉様の私室だった。

 

 身代わりなので当然と言えば当然なんだけど、これからしばらくお姉様のお部屋をお借りして生活をすると思うと申し訳なくて心苦しい。

 

 お姉様の部屋は王族のひとり娘にしては、すっきりしたお部屋だった。

 ドレスも化粧品も何を取っても趣味の良いものばかりでそして最低必要限しかなく、凛としているお姉様らしい。

 もちろん、ひとつひとつの家具は触るのが怖いくらいどれも立派。

 丁寧に使われているのを見ると、大胆に見られがちなお姉様だけど、そばにいる人だけが感じる繊細な面が出ていて、私室って人となりがよく現れるなぁと感心してしまうぐらいステファニー王女殿下そのものの部屋だった。

 

 お姉様の専属の侍女さんは生まれてからずっとおひとりだそうだ。

 ターナさんという少し年配の侍女さんは、幼い頃からお姉様のお世話をされていて、今回はステファニー王女殿下が行方不明になったことを1番に気づき、そしてわたしとお姉様の関係や事情を知る唯一の侍女さんだ。

 白髪混じりの髪をきっちり纏めて、たおやかな雰囲気の女性。


「長旅でお疲れになったでしょう。今日はゆっくりしていただきたいところなのですが、少し落ち着かれましたら、陛下ご夫妻やフィリップ様との面会がございます。その後は僭越ながらこのターナがステファニー王女殿下の交友関係等について、お話しをさせていただきます」

 ターナさんはゆっくりと話し、この後の予定について丁寧に説明してくれるが、少しずつ声が震えて涙声になっていく。


「…本当に申し訳ありません。あの時のお生まれになったばかりの姫が無事に素敵な女性にお育ちになったかと思いますと…感極まってしまいまして…」

 ターナさんは後ろ向き、ポケットからハンカチを取り出すと溢れ出てくる涙を拭っているようだった。

 ターナさんは一生懸命普通に喋ろうとするんだけど、すぐに感極まってまた涙が溢れ出すようだった。

 

 当時の事情を知るたったひとりの侍女さん。

 わたしのことを長い間、気にかけていてくださったのが言葉の端々からわかった。

 

 後ろを向いている彼女に歩み寄り、正面から彼女を抱きしめる。

 そして、静かに涙をこぼす彼女の背中をゆっくりさすることぐらいしか、わたしにはできない。

 その行為がまた余計に彼女の涙を誘うのか、ターナさんの涙が一層に溢れ出す。


「申し訳ありませんでした」

 ひと通り泣いて、ターナさんは落ち着いたようだった。

 きっと、お姉様が行方不明になってから、様々な不安を抱えていたに違いない。

 濡れた赤い目をしながらすごく恐縮している。

 

「落ち着かれて良かったです。改めまして、わたしは隣国のアマシアに住むリアーノと申します。ステファニー王女殿下が戻られるまで、しっかりと身代わりを務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」

「リアーノ殿下、私のことはターナとお呼びください。「さん」はいりません。そして、リアーノ殿下には大変恐縮ですが、事情が事情ですのでこのお部屋以外ではステファニー王女殿下とお呼びさせていただきます」

「もちろんです。それとわたしを名前で呼ぶ時は普通にリアーノとお呼びください。わたしはただのリアーノなので敬称はいりません」

 わたしは困惑して困った顔をしてしまったが、ターナさんももっと困った顔をされた。

 

「わかりました」

 しばらくの沈黙のあと、ターナさんは渋々だけどなんとか納得してくれて少し微笑んで了承をしてくれた。

 


「ステファニー王女殿下はいまだ、どこにおられるか見当もついていないのですか?」

 わたしがアマシアからニシアに向かっている間に少しでも状況が好転していないかと、期待を込めて聞いてみた。

 ターナさんが目を伏せて、横に首を振られる。

「そうなんですね」

 見当もついていないという事実を突きつけられて、言葉が続かなかった。

「ステファニー様は本当に幼い頃から活発な方です。フォンデル公爵のご子息のジーク殿がリアーノ様をザッハまで連れて来ると連絡があった時には飛び出して行かれましたからね」

 フゥとターナさんがため息を吐かれる。

 

 それはものすごく心当たりがある。

 ザッハの仮面舞踏会で初めてお会いしたことが思い出された。

「そうですね。すぐに駆けつけてくださったと後で聞きました。それに、アマシアの食堂にも滞在してくださいました」

 アマシアでともに暮らした楽しかった1か月間が思い出された。


「本当にね。ステファニー様の行動力には困ったものですよ」

 そんなことを言いながら、目にいっぱいの涙を溜め遠くを愛おしそうに見つめるターナさんから、どんなにステファニー王女殿下を大切に思っているのかがすごく伝わってきた。

 わたしはそれだけでとても温かい気持ちになった。

 

「リアーノ様、さあ、これから短時間で覚えることがいっぱいで大変ですよ」

「もちろん、覚悟しているわ。お手柔らかにお願いします」

 わたしはターナさんと顔を見合わせて、これから待ち構える困難を払うかのように思いっきりふたりで笑った。

読んでいただき、ありがとうございます。

では、恒例の…アレを!


ターナ:「お荷物が鞄ひとつと少ないですね」

リアーノ:「身元のわかるような物は持って行くなとアドバイスをもらいました」

ターナ:「的確なアドバイスですね」

リアーノ:「単に持ち物にイニシャルを入れていない物がほとんどなかっただけで…」

ターナ:「????」


その後、ターナさんはリアーノの特技が「飾り字」だと教えてもらい、ひどく納得。

なるほど〰︎ 飾り字でいろいろな物にイニシャルを入れまくっていて、持っていける物がなかっただけなのだと…



★「続きが早く読みたい」と思われた方や面白いと思われた方、ブックマークや下記の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をどうぞよろしくお願いします!

作者のモチベーションがすごく上がります。


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